前世を見る能力その1
「それで用ってのは何なんだよ?」
いい加減この教室の騒ぎを収めたいので本題を切り出す。
「ここに面白い能力の子がいるって聞いたのよ」
「全員個性的で面白いと思うけど」
クラスメイトの能力は皆様々だ。入学式の時に自己紹介でクラス全員、名前と自分の能力を紹介させられたのだが、元々姉以外の超能力者に出会うことも無かった俺は自己紹介の度に驚きの連続で未だにクラス全員の能力を把握できていない。
「そんなの分かってるわよ。確か名前はねぇ……りんちゃんって子」
「りん?」
誰だっけ?名字なら大体把握しているんだが。
「分かんないの?クラスの子の名前くらいちゃんと覚えておきなさいよ」
「悪かったな。そもそも姉貴が勧誘してきた子じゃ無いだろな?」
「違うわ、私が誘った子は全員ちゃんと覚えてる」
「それって間はざまさんの事じゃない?」
三輪という一人の女子が口を開いた。
ハザマか、それなら知っている。下の名前を忘れていた。
「そうそう、間厘はざまりん。その間厘ちゃんって子はもう来てる?」
「あそこ」
三輪が向いた先の方を見ると席に座って一人本を読む少女の姿があった。
ハザマリン、休み時間はいつも教室の隅の席に座っている少女、印象が薄く誰かと喋っている所を殆ど見たことがない。
見た目は地味で背が小さく小動物のようであるが顔立ちは整っており、男子から密かな人気があるとは聞いたことがある。
「ふ~ん、あの子か」
姉貴はやっと俺の机の上から降り、スタスタとハザマの席に歩いて行く。
そして、空いているハザマの前の席に座った。
「はじめまして、私、小町千里って言うの。貴方が間厘ちゃんね?」
「うん」
ハザマは姉の方を向きこくりと頷く。
「りんちゃんって呼んでいいかな?」
「どうぞお好きに」
素っ気無い感じである。このクラスで姉貴にそんな態度を取る生徒は見たことがないのでなかなか新鮮だ。
「私の方は好きに呼んでくれたらいいわよ。それで早速なんだけどりんちゃんの能力見せて欲しいなぁ~って」
姉貴は猫なで声のような声でお願いする。
「りんの能力知ってるの?」
「知ってるわよ、貴方他人の前世が見えるのよね」
そうだ、思い出した。自己紹介の時彼女はそんな事を言っていたような気がする。なんせ彼女がその能力を披露する所を一度も見たことが無かったので忘れていた。
「顔と名前だけだけど」
「十分よ、私を見てくれないかしら?」
「じゃあ手のひらを上に向けて両手を差し出して」
「こう?」
姉貴は言われたとおり手のひらを間に差し出す。
ハザマは差し出された姉貴の手のひらにそっと自分の両手を重ねる。
そして、目を閉じた。
「見えました」
その間僅か数秒、彼女は目を閉じたまま喋る。
「え、もう見えたんだ。どうだった?」
「40歳位の外国人の女の人」
「人種は?アジア系、それとも白人とか」
「ブロンドの髪をした白人」
「美人?」
「だと思う」
「うふふ、そうなんだ」
姉貴は何やら嬉しそうだ。
「それで名前は?」
「エレーナ・シュリット」
「文字は分かるの?」
ハザマは手を離し目を開け引き出しから紙とペンを取り出すとスラスラと文字を書き始めた。
書き終えるとそこにはアルファベットでElenaSchrittと書かれていた。
「すごい!文字まで分かるんだ」
「頭に読み方と文字が浮かぶの。難しい文字は覚えられないから書けないかもしれない」
「この紙貰える?」
「どうぞ」
姉貴は紙を綺麗に折りたたみ制服のポケットにしまった。
「エレーナ・シュリットね。ふ~ん、ちょっと調べてみようかしら」
姉貴は天井を見上げふんふんと頷いたかと思うと、満足げな表情をした。
「ありがとね!りんちゃん」
礼を言われたがハザマは目を合わさずうつむいたままだ。
恥ずかしがり屋なのだろうか?不思議な少女だと思った。
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