超能力者を見つける能力
いつもより早くに校門をくぐり、いつもより早く教室に入ると俺の席に先客がいた。
席というよりは机の上だ。そこで周りの女子達と駄弁っている。
俺はその行儀の悪い女を無視し椅子を引いて着席した。
「あ、万里ばんりおはよう。今日早いわね」
その女は何の悪びれもせず挨拶してくる。
「姉貴、そこ邪魔なんだけど」
「なによ~あんたが来るまでずっと待ってたのに」
そう、この無礼な女は俺の姉、小町千里こまちちさとである。
学年で言うなら俺の2コ上、3年生だ。
当然このクラスの人間ではない。
「何を待つ必要があるんだよ。用事なら家にいる時に言えばいいだろ」
「ここじゃないと意味ないのよ」
「ああそうですか、じゃあとっとと済ましてくれよ」
毎度のことだどうせ下らない用事なのだろう。
適当にあしらっておくか。
「万里、ちょっと冷たすぎるんじゃないか?」
離れた席に座っている眼鏡をかけた男がいきなり会話にツッコミを入れてきた。
男の名は常磐文也ときわふみや。
背は高いがヒョロっとしていて見た目通り運動は苦手、かと言って勉強ができるかと言われれば実際はそうでもない。
いつも俺に対して事あるごとにつっかかって来るのだ。
正直うっとおしい。
「お前には関係ないだろ」
「ああそうだ、関係ない。だから関係あるお前が羨ましい」
「はぁ?」
「俺も千里さんに構われたい」
俺もだーという声が教室からぽつぽつ聞こえてきた。
全て男子の野太い声だが。
「なんだこいつら……」
「家では弟である事を利用してあんな事やこんな事……なんといううらやまけしからん奴だ」
「何想像してんだ、お前のほうがけしからんわ」
姉はモテる。
弟の俺が言うのもなんだが、かなりの美人だからだ。
すらっと長く伸びた髪、小顔で背も高くスタイルもいい。
そのくせ出るとこは出ている。
クラスの男どもはそんな姉の挙動一つ一つに見惚れているのだ。
その弟である俺、小町万里こまちばんりは姉貴がやってくる度に嫉妬の対象になる。
だから正直この教室には来ないで欲しい。
「上級生が下級生のクラスに毎日やってくるのはどうかと思うんだが?」
「別に来ちゃいけないとかいう校則は無いけど?」
「皆迷惑がってる」
「えーそう?皆私がいて迷惑?」
姉貴がさっきまで話していた女子に問いかけると、そんな事あるわけないじゃんとか千里さん面白いしとか口々に答える。残念なことに脅されている感じでもない。
悔しいが姉貴はこの弟を差し置いてクラスで人気物の地位を確立しているのだ。
その理由は単に見た目がいいとか性格がいいとか単純な理由だけではない。
クラスメイトの多くは姉貴の事を入学前から知っていたからだ。
「千里さんが誘ってくれなかったら私、この学園に来てなかったし」
一人の女子がそう答える。
「良かったあ。ちょっと不安になっちゃた」
そう、今年入った一年生の多くは姉貴が自分で見つけてきてこの学園への入学を薦めた超能力者たちなのだ。
だからこんなに普通に下級生のクラスに溶け込めている。
でもどうやって姉貴はこれだけの能力者を見つけることが出来たのか。
それは姉貴の持つ超能力にあった。
「千里さんはすげーんだよなあ。ひと目見ただけで俺を超能力と見抜いたし」
「最初は驚いて逃げちゃったんだけど、どこに逃げても見つけちゃうんだよ」
クラスメイトが次々に姉貴と出会ったときのことを語る。
そりゃそうだ俺も姉貴から逃げられた試しも無い。
俺が手からからあげを出す能力に覚醒した時もすぐに気づかれた。
何故なら姉貴はその超能力者を見つける超能力を持っているから。
その能力名は能力者探知、近くにいる能力者の気配を感じとり、相手を見ただけで能力者かどうか見分けることができる超能力。
この能力の有用性は学園と連携している研究開発機関JEDAにも認められており、機関のエージェントとして全国各地を飛び回り能力者を見つけ機関に報告したり、時にはこの学園への入学を薦めたりしていたのだ。
だからここ1,2年なんかは殆ど家にも学園にも居なかった。
だが流石の姉貴も仕事ばかりに嫌気が差したのか最後の1年は学業に専念したいという本人の希望でこうやって学園生活を送っているのである。。
「安心してください、千里さん。このクラスで貴方を迷惑がっている人なんて居ません。万里もきっとそうです」
また常磐のやつがしゃしゃり出てきた。
「勝手に俺の気持ちを代弁すんな」
「大丈夫、万里が照れてるだけでお姉ちゃん大好きなことは知ってるから」
「照れてねーよ」
教室からドッと笑い声が起こる。
姉貴のせいで完全に俺はこのクラスでシスコンというイメージが出来上がってしまった。
ブラコンなのはどう見ても姉の方だろうがよぉ。
これはもういじめだ。
姉貴が主犯格のいじめが今このクラスで起こっている。
もし俺がパイロキネシスの能力者だったらこの場で覚醒して教室は火の海になっていただろう。
「良かったな姉貴、俺の超能力が平和的で」
姉貴は何言ってんのこいつみたいな、きょとんとした顔をしていた。
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