手から唐揚げしか出せない俺は超能力を鍛えることにした。

乙間椎

プロローグ

 春爛漫。


 この春、高校生になったばかりの俺は桜並木を眺めながらのんびりと登校していた。


 今日は早めに家を出たしゆっくり学校に向かおうじゃないか。


 そんな風に呑気に考えいてると後ろから地面を蹴る音が聞こえてくる。

 その音は段々と近くなり、気になって振り返ると俺の横をすっと一人の女の子が追い抜いて行った。


 彼女は俺と同じ校章のついた制服を着ている。部活の朝練にでも遅刻しそうなのか。

 彼女のバッグは開けっ放しだった。そこからぽろりと筆入れが落下する。


 俺はしゃがんでそれを拾おうとする。すると、その筆入れはひとりでに勝手に動き、宙に浮いたのだ。

 それはそのまま空中で弧を描いて彼女の手の中にすっぽりと収まった。


 だが俺は驚かない。そんな光景はもう日常茶飯事だからだ。

 その理由は俺が今向かっている学校にある。


 俺が通っている学校は普通の学校じゃない。

 どう普通じゃないかって言うと生徒全員が超能力者って事だ。

 スプーンを曲げたり、封筒の中身を透視したり、そんな生徒たちと俺は学び舎を共にしている。


 学校の名は最古学園。

 政府が超能力者育成のために設立した教育機関だ。

 この学校は同じく政府が管理する日本超能力研究開発機関(japan ESP research and development agency)通称JEDA (ジェダ)と連携しており授業の中で生徒達の超能力を向上させるための訓練が日々行われている。


 もちろん普通の学校教育も行われている。

 学習内容は高校レベルであるため生徒も義務教育を終えた男女ばかり。

 小学生や中学生向けの機関もあると聞いた事があるけどよくは知らない。


 超能力者の存在が世界に認められた今、全世界では国家主導で超能力者の育成が進められているのである。

 だが超能力者の数は少ない。大体、新生児の1万人に1人とか言われている。

 そんな貴重な超能力者を国の発展に役立てようと先進国は躍起になっているのだ。


 そんな俺ももちろん超能力者。

 もっとも自慢できるような大した能力じゃないが。


 ニャーオ


 ん、鳴き声?


 足元に視線を落とすと道端にやせ細った子猫がいるのを見つけた。

 人間にわざわざ寄ってくるなんて、もしかしてお腹をすかしているのだろうか?


 俺はしゃがんで猫の目の前に右手の握りこぶしを差し出す。

 そして頭のなかで強く念じた後そっと握りこぶしを解いた。

 すると手からジューシーな匂いとともにほっかほかのからあげが現れたのだ。


 子猫は勢い良くからあげに齧り付いた後、すぐにさっと逃げ出した。

 なんだよ少しくらい撫でさせてくれたって良かったのに。

 俺は猫を見送った後ゆっくりと立ち上がる。


 そう、俺の能力は手からからあげを出すことだった

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