勇者になり損ねた(らしい)俺のVRMMO記

冬生 羚那

第1話

ドキがムネムネする。

なに、古いって?

知ってる。

それでもこういう時は一応様式美として言っておくものかな、って思ったのさ。


さて、それはおいといて……。

今日はいい天気だ。

寒くもなく暑くもない、俺にはちょうどいい気温。

絶好のゲーム日和だ!


昨今のゲーム業界の進歩は凄まじいと聞く。

ま、昔に比べたら何でも進歩してると思うがな。


俺も昔はよくゲームしたものだ。

それに合わせてラノベもな、読んだよ。

あの頃はまだVRゲームが台頭してきた頃だったな。

俺も欲しがったものだ。

ラノベであった『VRMMO』ってやつに憧れてな。

今じゃあVRMMOと呼ばれるゲームはそれこそ多種多様ある。


ああ、あの頃――あの日はまだVRMMOはなくて、VRRPGだったな。

中学三年の、夏だ。

俺の誕生日が近くて、あの日親と一緒に買いに行ったんだよ、VR専用HMDを。

めちゃくちゃ嬉しかったな。

買ってもらったHMDを抱えて、俺は軽い足取りで家に向かってたんだ。

両親は後ろから仕方ないな、って苦笑しながらついてきてたっけ。

そこに突然響いたのがスリップ音でさ……。


あの日は俺の人生の中で一番嬉しい日だったのに、一瞬で壊されたんだ。


いや、俺は擦り傷ぐらいしかなかったよ?

ギアの入ったダンボールはしっかり抱えてたし。

ただ……俺の目の前で人が死んだ。


居眠り運転だったらしい。

トラックが俺に向かって突っ込んできてさ、折角買ってもらったHMDを壊したくなくて……俺はそれを抱えて目をキツく閉じたんだ。

そしたら横から突き飛ばされてよ。

俺を突き飛ばした奴が、轢かれた。

ソイツは近所でも……いや、下手したら市で有名なヤンキーでさ、まさかそんなバカな、って思ったものさ。

接点なんて同じ学校に通ってるぐらいしかなかった。

噂ぐらいしか聞いたことがない。


そんなヤンキーが俺を助けてくれて……見るも無残な姿になっちまった。


あの直後俺もご両親に頭下げてお礼を言ったけど、今――30になって――もこうやってHMDを見ると思い出す。

たまにソイツの墓参りにも行くし、20超えてからは酒も供えるようになった。

感謝してる……けれど、俺なんか助けなくてもよかったのに、とも思う。


俺は熱しやすく冷めやすいタイプだ。

興味のないものにはとことん興味がないし、興味を持っても気に入らないことがあったらすぐ冷める。

そんな人間だ。

別に苦手なわけでもない。

ただ、何においてもやる気が出てこない。

学生の時分、勉強も運動も特に目立たず、人間関係も未だこれといって特筆するようなこともない。


全てにおいて平々凡々。

それが俺――前波啓太――だ。


俺を助けたアイツは、よく言えば情熱的な奴だった。

激昂することも多かったし、拳にモノを言わせることも多かったけど。

ヤンキーで、沢山の人に怖がられてたけど……葬式の時に泣いた人も多かった。

助けてもらった、気に掛けてもらった。

そう、俺なんかよりよっぽど人間味溢れる奴だったんだ。

それを後から知ったところで何も出来なかったけどな。


沢山の人の心に居たアイツこそ、生きているべきだったと思う。

……かといって自分の命を粗末にするつもりはないけれど、毎日同じことを繰り返しているだけで、人生に生きがいなんてないし、つまらない日々を生きている。

そんな俺は今でも『生きがい』になりそうなものを探している。


「……最近、これHMD見るとしんみりしちまっていけねぇな」


1人で苦笑いを浮かべて溜め息を吐く。

俺の手の中には古いVR専用HMDがある。

あの日、俺が抱えて、アイツが守ってくれたものだ。

元々ゲーム好きだったし……あの後知ったのが、アイツもコレを買いに来ていたらしい。

だから、俺が助かったってやつだな。

コレをアイツの墓前に供えようとも思ったんだが、ご両親がやんわりと断った。

『君が遊んでくれた方が喜ぶ』ってね。

だから俺はゲームをするとアイツの墓で駄弁るんだ。

このゲームはこれが良かったとか、さ。

かといって俺も詳しいわけじゃないから気になったとこだけな。

アイツも俺と同じで、ゲームやラノベが好きだったみたいだからな。

生きてたら、もしかして一緒にゲーム出来たりしたかもしんねぇ。


そして今日は新しいHMDが届くのだ。

このHMDは型遅れ過ぎて最近のゲームが出来なくなってきたからな。

これでも保たせてきたんだけどな。

もう何年も前に廃番になって、修理するための部品も見当たらなくなっちまった。

コイツをとっておくのは決まってる。

暫く忙しくて使えなかったが、これには思い入れがあるからな。


ゲームを片付けてある棚にHMDを持って移動し、置いておく。

今度コレを持って墓参り行くかな。

ま、それは後で考えるとして、約束の時間に遅れちまうから急ぐか。




▼▼▼


新しいHMDをダンボールから取り出して眺めてみる。

最近は軽量化が進み、片手で持っても重さにふらつくことはない。

俺が使ってたのはヘルメットタイプだったし余計にそう感じる。

何故なら俺の手の中にあるのは少しゴツいゴーグルタイプだ。

進歩ってすげぇな。

説明書を軽く読んで充電スタート。

その間に諸々を終わらせておく。

家事とか侵入者防止グッズの確認な。

ダイブしちまったら即行動が出来なくなるから、火の元とかセンサーの確認は今のうちにやっとかねぇと。


諸々を終わらせて俺はベッドに横になる。

その手にはもちろん新型のHMD。

装着するときにこめかみ辺りがひやっとしたが、これは脳波を受信する部分とか言ってたかな?

確認済みのボタンをぽちっと押せば、全身にピリリッと何かが走る。

この電流が俺の身体データやら平常時のバイタルサインを計測するらしい。

ゲーム中も計測されていて、異常がみられると警告だとか強制ダイブアウトされるんだとよ。

これは医療にも使われているとか聞いたことがある。

ダイブアウトは医療には関係ないけどな。


ピリピリしたのがなくなると半透明のゴーグルに色んな文字が流れていく。

英語かなにかと数字だ。

それがざーっと流れ少しの間を置いて<ALL CLEAR>と出てきた。

その文字を確認して目を閉じれば、意識がすーっとどこかに吸い込まれていく。


<CROSSING WORLD ONLINE 起動します>

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