第2話
目を開いた俺は、真っ白な空間に一人立っていた。
立っていたとは言っても浮かんでる、っていうのが正しいかもしれない。
真っ白な空間は一定のサイズで銀色の線が走っている。
ちょっとSFチックな気分になるな、これ。
俺がやろうとしているこのVRMMOは数社が共同開発したもので、剣や魔法もあればロボットも出てくるものらしい。
らしい、というのは俺が調べたとかじゃなくて、友人が勧めてきたものだからわからないのだ。
仕事が忙しくて事前情報を仕入れる暇がなかったが、手探りでも問題ないだろう。
むしろこういうものは自分で見つけることが楽しいものだ。
腕組みをしながら一人頷けば、どうやら俺はマッパらしいことに気づく。
パンツくらいは履いておきたかったが……まあ、いい。
何も纏っていない俺自身の体をじっくりと観察してみる。
完全没入型と言われているこのゲームは、ゲーム内の体が現実世界とほぼ同じものになる。
変更出来る部分は肌、瞳、髪の色に髪の長さ、そして顔つきだ。
肉付きとか身長は現実との誤差を生むと歩行も困難になるらしく出来ない。
顔つきも弄れるがほんの数ミリで、ツリ目を穏やかにする、とかぐらいなものだ。
漫画とかにある『お目目パッチリ!』とかは出来ない。
女性の化粧程度の変更は男の俺には必要ないからいいんだけどな。
ちょっとたるみ始めた自分の体から目を逸らすように顔を上げれば、目の前にいつの間にか小さな女性がいた。
こちらはちょっとデフォルメされた容姿で、でも見た目は大人の女性らしくスーツ姿のきりっとした女性だった。
――『CROSSING WORLD ONLINE』にようこそ。ワタクシはチュートリアル担当の『アイ』と申します――
脳内に直接聞こえるかのような声と、『アイ』と名乗った女性の左側に浮かぶふきだしに文字が書き記されていく。
表情はあまり変わらず、淡々とした印象を与えてくる。
――まずは貴方様のお名前をお教えください。この名前はダイブネームとなりますので、他の方との重複は出来ません。また卑猥な単語、電話番号やメールアドレス等の個人情報と類似した文字列は認められません――
この辺りは友人から聞いていたので頷きながら考えていた名前を思い浮かべる。
NPCとも重複不可らしいので、幅が狭いなぁ、と思ったものだ。
「じゃ、『ランスロット』」
――『ランスロット』ですね、検索します……申し訳ありません、既にプレイヤーが存在します――
試しにとある伝説の中から、と言ってみたがやはり既にいたらしい。
このゲームは公開されて1年程近く経っているからな。
長々とした名前は好みじゃないし、かといって自分の名前を入れても面白くないんだけどな。
考えていたいくつかの名前を挙げてみるが、どれも重複でアウトだった。
まあ、考えていたと言っても、伝説系や神話系から拾ってきたものだったんだけどな!
俺と同じようなことを考える奴がいたってことだ。
「じゃ『
――『
「シンプルな方がいなかったか」
これはたまたまだろうが、ふと浮かんだ海に漂う
もう考えるのも面倒だからこれでいいだろう。
「じゃ、名前はそれで」
――畏まりました。……ダイブネーム『海月』で決定。続いてアバターの変更がありましたらどうぞ――
そうアイが言うと俺の前にふぉん、とウィンドウが浮かんだ。
そこには小さく表示された俺と、その右側に色の表示がある。
肌の色、髪の色とタブがあり沢山の色がある。
ぽちぽちと色々タップしてみるが自分の色味み慣れているせいか、どれもしっくりとこない。
しかも目の色は左右で違うものにも出来るらしい。
凝っているといえば凄いが、俺からすればめんどくさいの一言で済んでしまう。
――カラーリングにお困りでしたらランダムもございます――
「あ、そうなの?じゃ、ランダムで」
友人が色は変えておけ、と言ったから見ていたんだが……ランダム出来るんなら最初に言って欲しかった。
ぽちるのめんどかった。
――畏まりました。ランダム開始……完了――
小さな俺が一瞬でその見た目を変える。
小ざっぱりして見えるように整えていた真っ黒の髪が、少し紫混じりの黒っぽい色に変わる。
その長さも背中程まで伸びて、前髪にワンポイントみたいに赤っぽい房が交じった。
そして右目は黒のままだが、左目が髪みたいに紫混じりの黒になったらしい。
ぱっと見ではちょっと色変わった?程度と赤の房と髪の長さしか変わった部分がわからなかったんだけど、アイが説明してくれた。
「うん、じゃあこれで」
もうめんどいし、待ち合わせ時間も近いからさっくりと決定しておく。
一瞬アイの表情が綻んだ……気がしたがやっぱり無表情に近いままでお辞儀される。
――畏まりました。アバター作成完了します――
アイの宣言で俺は漸く服を着ることを許された。
小さいとはいえ女性の前でいつまでもゾウさんをぶらぶらさせておくのは俺の精神衛生上よろしくなかったのでありがたい。
体を締め付けるゴムだか紐だかの感覚はほっと胸を撫で下ろすものだった。
俺は裸族には向かないな。
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