第4話

チュートリアルで貰った[初心者用ショートソード]と[初心者用ポーチ]を装備して、アイの先導の元ポータルへ向かう。

もう1つ[初心者用ワンド]というのも貰ったが、今はポーチの中だ。

友人と合流してから考えようと思っている。

剣も振ってみたいが、魔法も楽しそうだもんなと、ワンドを捨てることなく保持しておく。


アーツを獲得するには、それに対応した武器を装備して熟練度を上げないと獲得出来ない。

だがアーツは獲得してしまえば武器を変えても、威力が落ちるが使うことも出来る。

剣士が魔法を使えるってことだな。

例えを挙げるならば、ワンドを装備して使った攻撃魔法の威力が100ならば、剣装備で使うと20程度とガクンと下がる。

だが、ポテンシャルがなければ失敗することもあるのだ。

高レベルの装備だともっと幅が広がるな。

そして武器依存のアーツもあるから確認はしっかりすべきだが。

二刀流は武器を両手に1本ずつ装備していないと使えないし、盾を使ったアーツは盾を装備してなきゃ使えないってこった。


アーツよりもポテンシャルの方が必要性は高いと思う。


ポータルと呼ばれるそれは移動装置?魔方陣?である。

この平原はチュートリアル専用で、二度と訪れることは出来ないらしい。

そしてアイとはここでお別れだ。


ポータルは大きな扉だった。

両開きの重厚そうな扉は開かれたままで、そこには渦のようなものが存在している。

その扉を支える大きくて太い柱には液晶のようなものがついていて、前の人がポータルに入って行くのを見ているとその液晶をアイのような小さな人が触って動かしているみたいだった。

そして小さな人は、見送りを終えると光になって消えていく。


「あれ、消えちまってんの?」


――いいえ、元いた場所へ戻っているだけです――


「あ、そうなんだ」


消えていく小さな人の姿の行方を聞けば淡々と答えをくれるアイ。

きっと新しいプレイヤーのチュートリアルという仕事へと戻って行くのだろう。

アイもそうなるのだろうな。


――……それでは扉の前の魔方陣の上へお立ちください――


ぼんやりとしていたら俺の番になっていた。

アイが示す魔法陣の上に立ち、アイの姿を見ていると液晶を何度かタップしている。

視線を渦の方に向けてみるけど、何か変化した部分はなくて、これで移動出来るのか?とちょっと疑問に思う。


――指定完了しました。……海月様の旅立ちに幸多からんことをお祈りしております――


「ああ、ありがとうな、アイ」


――いってらっしゃいませ――


深々と頭を下げるアイにひらりと手を振って俺は渦の中へと足を進めた。


――……またお逢いしましょう――


そんな小さな声が聞こえた気がしたがぐにゃり、と瞬きの一瞬で視界が歪み、今まで静かだった周囲は一変して騒がしい街中へと変わったことでそのまま流してしまう。

数歩足を進めてから後ろを振り返れば、平原と同じような扉がそこに聳え立っていた。

そして俺の後から人がその扉を潜り抜けて現れる。

顔を前に戻せばそこかしこに人、人、人。

最初の街らしい賑わいを見せている。


「……さて、待ち合わせ場所が……左の方の噴水っつってたか?」


ゆったりと歩きつつ周囲を観察してみる。

あっちでは友人と合流したらしい初心者がゴッテゴテな鎧を装備した人達と談笑している。

こっちでは等間隔に敷物を広げ座っている人達の上に[赤P:10E/個]や[剣士武器各種]等のふきだしが乱立している。

これが露店なのだろう。

初心者向けの装備に回復アイテムらしき名前がそこかしこに見えている。


こうして見てみると、人の頭の上に名前があってその色が2種類に分かれている。

格好を見ればどうしてかはすぐ判断がついた。

俺のようなプレイヤーは青色で、NPCと呼ばれるキャラは緑色になっているのだ。

[YESロリータNOタッチ]という名前が見えて、ああそういうのも有りなのかと思ったぐらいだ。

あれを見ると俺は不意に思うんだが、[YESショタNOタッチ]ってあんま聞かねえよな。

何故ロリータだけなんだろうな?


多分物凄くどうでもいいことを考えながら、友人に指定された噴水の前に辿り着く。

前がどこかはわかんねえけどな。

まぁるい噴水はそれなりの高さがあって、傍に近づくとその水飛沫を感じる。

周囲の空気も冷えているのか涼しさも感じるほどだ。


ここまで来てふと思う。

俺、友人のユーザーネーム知らねえわ。


「あー……どうすっかな……」


友人と合流するためには致命的なミスと言っていいだろう。

見た目で判断するにも、色合いが変わっているとちょっと印象が違うからコイツだ!とすぐわかるかどうかも怪しい。

だが、待てよ?

アイツは何かペラペラしゃべっていた記憶がある。

確かこの前、強敵のドラゴンを他のPTと組んで取り囲んだとか言ってたな。


「……い、……-い……」


それが赤いドラゴンだったとか、死闘を繰り広げたとか?

それから……確かそのドラゴンの素材を使って装備を作ったとかなんとか……。


「おーい、けーちゃーん?」


それが上部分の防具で、また素材ゲットしに行くとか……。

なかなか素材が貯まらなくてチグハグな装備なんだーだった、か?


「おーい、けーちゃーん?いませんかー?」


ああ、確かに装備がチグハグな人がいるな。

今誰かを探しているのか、手でメガホンを作りながらキョロキョロして声を上げている奴もそうだわ。

真っ赤でトゲトゲの近寄ったら刺さりそうな、そして明らかに肩幅がゴッツい鎧装備してる人がいる。

あれ、剣振り上げたら刺さるんじゃね?

こっちに向かって歩いてくるんだけど、上半身はゴッツいのに、ズボンが何故かスケスケだ。

近いのはあれだ、踊り子とかそういうやつかな。

アラビアン風で、足首の辺りできゅっと締まっているが、ふくらはぎの部分とかはふんわりした感じだ。

そしてもう一度言うが、スケスケだ。

かろうじて[えっふぇん]の部分は見えないようだが……際どいところまで肌色が透けている。

何度も「けーちゃーん」と声を上げているが周囲から人が避けている。

NPCもだ。

わかる、俺もちょっと近づきたくない。

我関せずで距離をとろうとじり、と足を下げた。


「けーちゃーん?アナタのとも君がお待ちですよー」


その瞬間、下げた足に力を入れて踏み出し、近寄りたくないと思っていたはずの人間に向かって飛び蹴りをかました。


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勇者になり損ねた(らしい)俺のVRMMO記 冬生 羚那 @Rena_huyuo

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