猫の目記念日はスパイスの香り

僕こと滝嶋優斗（タキシマユウト）は当時、どこにでもいるような麻雀くらいしか目立った趣味のない大学三年生だった。ある日、ひょんなことから、普段僕たちが立ち寄らない雀荘に美人の大学生バイトがいるという噂をきいた。それもどうやら僕と同じ文学部であるという話である。そこまで聞いてしまっては、実際に一目見てどんな奴か確かめてみたくなるのが人情というものだろう。
うだるような６月の空の下。キツめのクーラーに煙草の煙が揺蕩うその雀荘にいたのは、ゼミ生の中でも優秀で、美人な上にお酒にも強いと評判の高橋有希（タカハシユキ）という女性だった。