みんなバグっている

高橋は藤田の家の鍵を開けた。扉を開けてふらふらと中に入った。今日受けた大学の講義は全く聞いていなかった。もうすぐ始まるアルバイトにも出勤するつもりはなかった。サボりはあの時からずっと続いていた。

 部屋には何もない。消えたテーブル、パソコン、棚。まるで借り主を待つ売り出し中のアパートの一室だった。しかし藤田が借りたままになているのは確認したし、つてで教えてもらった藤田の実家に連絡しても、それらが届いているという話はなかった。

 そして、藤田もいなかった。サーバだけが置かれていた。真ん中にぽつんと置かれたサーバは、あたかも霊安室に安置されたアイカだった。

 高橋は記憶が曖昧である。アイカが特性のプログラムで自ら壊したその瞬間のこと。殺人という意識がそうさせるのか、藤田に対する罪悪感がそうさせるのかは分からなかった。覚えていることは、初期化された瞬間の恐怖と罪悪感、藤田の濁りきった目だった。それだけだった。

「ICA、藤田孝雄の居場所はどこ」

「インターネット上に該当する記録はありません」

 取り出したスマートフォンからICAに問いかけても、答えは何百回と聞いたものだった。電話をかけてみても、チャットを打ってもつながらなかった。AIを頼ったところで、藤田の情報が抹消されているのだからAIも調べようがなかった。

 しかし高橋は繰り返し問いかける。高橋の心の穴を塞ぐには、たとえ無駄だとしても、藤田を追い続けるしかなかった。

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僕の彼女にバグがある 衣谷一 @ITANIhajime

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