番外編4)忍者、実家にメールをする

携帯水晶。通称ケータイ。

魔力で動く通信機器。魔法が苦手な人でも簡単な操作でメッセージの魔法+αを使うことができる。のみすぎが大学生の頃(20年ほど前)に初めて発売された後はそこから瞬く間に広がり、ほぼ国民全員が持っているといっても過言ではない。


ケータイは魔力エネルギーの入ったバッテリーが組み込まれているので水と雷には弱い。念じると電源が入り、連絡をしたい相手の水晶ナンバーを選ぶことで話したりメッセージを送ることができる。魔法とは違って、人を知っていても水晶ナンバーを知らないと連絡が取れないのが難点だけど。

今ではこのケータイで買い物ができたり、本が読めたり、魔導SNSもチェックしたりできるから手放せないシロモノだ。


今回はそんなケータイの話。


**********


「むぅ、困った。ケータイをどこかに落としたようだ。」

悩んでいるのはのみすぎのパーティの全裸忍者、神速のモザイクことム・シュウセイだった。机がガタガタと震えている。

焦りのあまり、貧乏ゆすりをしていたようだ。


「誰かに見つかるとまずい。あれには書きかけのメールが入っているのだ。」


モザイクは居てもたってもいられなくなり、職安のブースを出て建物の中を探し始めた。

*****


「シュウセイや、お盆は家に帰ってくるのかい?」

という実家の母からのメールに彼は返事をしていたようだ。


「母さん

お元気ですか。ずっとメールを返さないでごめんなさい。

今日は報告があります。

ぼっちだった俺にも念願の友達が3人もできました。

いや、もっとかけがいのない「仲間」ってやつです。

田舎にいた頃は、忍者には友達など要らない!と言って強がっていましたが

実際に出来てみると、トモダチとはなんと甘くていい響きなのでしょうか。


母さんにも紹介したいので、お盆には心友たちも一緒に連れて帰ろうと思います。

じゃあ、暑くなってきているので体には気を付けて。


シュウセイより


*******

こいつのケータイを拾ったのは職安の女性職員だった。

「シュウセイさん、今までひとりぼっちの人だったのね。この文章から、きっとお母さん思いの繊細な心の持ち主だってわかるわ。」

彼女は持ち主が誰かを知るのに仕方なくケータイを見た際、スリープ画面からそのまま表示されて目に入ってしまうとはいえ、作りかけのメールの文章を読んでしまったことを申し訳なく思った。それと同時に、持ち主はワインとか詳しかったり、パスタとか作っちゃったりするオサレで細身のシュッとしたアンニュイなイケメンに違いない、窓口に取りに来た時にどうしようかと1人で妄想を爆発させていた。

かわいそうに。


*****

「行ったところはあらかた探したが、全然見つからん。あとは窓口で届いていないか聞くだけだな。」

忍者はやれやれと大きなため息をついた。もちろん全裸で。


「すまないが、落とし物が届いてはいないだろうか。」

覆面以外一糸まとわぬ成人男性が自分の前に立っている。

へ、変質者だ…!

女性職員は一刻も早く席を立って逃げたい衝動に駆られながらも、動揺を悟られたら襲われるかもしれないと身の危険を感じた。ここは冷静にチャンスを見て警報ボタンを押そう、それまではいつも通りに仕事をしないと、と口を開いた。

「お探し物はなんでしょうか?」

「猫の根付が付いたケータイなのだが。」

「あ、あの…お名前は」

「ム・シュウセイだ。」


「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

女性職員は自分の中で何かが崩れてゆくのを感じながら奥へと走り去り、

窓口には頭巾を被っただけの全裸男性が取り残されたのであった。


めでたしめでたし。

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