第9話 『渓谷』

ここはアステール15階層の地。

肌寒い緑豊かな渓谷だ──。


僕たちは今18階層にある大きな街『アーレス』に向かうのだが、

その道中は大きな渓谷で囲まれていて進むのが困難だ。


“壁は登れない”


“川は濁流で危険”


周りを見てみると奥の方にボロボロの橋が掛かっているではないか。

いつ壊れてもおかしくない吊り橋だ。

15階層の渓谷は天候が変わりやすく、今にも雨が降ってきそうな感じだ。

僕たちは特別なスキルがあるわけでもないので橋を渡ることにした。


「ねぇ、この橋本当に渡るの?」


ロゼッタは吊り橋を渡るのに抵抗がある。

ボロボロの吊り橋は風で左右に揺れていて3人一緒に渡ると壊れそうで危ない。

なので一人ずつ渡ることにした。


「んじゃあ、俺からいくぞ!」


まず先に晴人が行く──。

正直ビビっているが手すりに手を掛けて、ゆっくりと向こう岸まで進んだ。


「大丈夫だ!早く来いよ!」


次に進んだのがロコット。

怯えながら赤ちゃんみたいにハイハイ歩きで進み始める。


すると──。


勢いよく風が吹き始めボロボロの吊り橋は大きく左右に揺れる。

ロコットは大声で叫びながら中腰になり手すりの下を握りしめた。


「もう嫌だー!!!助けてー!」


あと半分で向こう岸まで辿り着くのだが、ロコットは一歩も進まなくなり晴人に助けを求めた。

ボロボロの吊り橋は壊れそうだ。


それを承知で晴人はロコットの元へ歩き進めたのだ。


「バカじゃないの!壊れるわよ!」


“メキメキッ…”


綱が少し緩み掛ける──。

晴人とロコットは少しずつ岸まで進みなんとか無事に辿り着く。


「──・・・。」


言葉が出ないロゼッタは呆然とする。

雨が降り始め、次第に風は強くなって行く──。


「おーい!早く来いよ!」


ロゼッタは不安な表情で晴人のことを見つめるが、進む勇気が出ない。

目を瞑つぶりながら心を落ち着かせる──。

“大丈夫”と自分に言い聞かせ、ロゼッタはゆっくりとボロボロの吊り橋を進み始めるのだ。


“メキメキッ…”


すると突如──



“バキバキバキッッッッッ!!!”



ボロボロの吊り橋は崩れるかのように真っ二つに崩壊していく。

ロゼッタは中心にいて崩壊した橋の先端──。

下を見ると真っ暗で先が見えない。


運よく、崩壊した橋はまだ地面と繋がっており助かる。

晴人がいる岸の方に崩れた橋が絶壁に接触していて上へと進めば助かるのだが──。


少しでも動こうとすると滑り落ちそうだ。

まさに絶体絶命。


“ズルズル…。”


晴人はすぐさま手を伸ばし救いの手を差し伸べる。

ロゼッタも手を上へと上げるも届かない。


「私はいいから…。」


「バカ言え!諦めるな!」


天候はさらに悪化し嵐のような雨吹雪が3人を襲う──。

雷も鳴り出す──。


“ゴロドーン…”


ロゼッタは左手で自分が使っている矢を取り出した──。

そしてその矢を晴人に向け始めた。


「これを掴んで…。」


晴人も左手でその矢を掴もうとする──。


“届かない…。”


ロゼッタは届かないと思ったが──

晴人は掴んだ。


掴んだのは矢の棒ではなく矢先だった。

晴人の左手からは大量の血が出ている。


「この手はゼッテェに離さねぇ!」


ロゼッタの顔には晴人の血が雨と一緒に滴る──。

そして2人の握っている手はすでに限界を感じている。


「このままだとあなたも落ちるわよ!」


“ズルズルルッ…。”


「私は大丈夫だから…。先に18階層に行ってて!」


「お前を置いて行けるわけが…」


「──ロコットちゃん…。おバカさんを連れてって…ね。」


ロコットは戸惑いながらも晴人を掴み、引きずりこむ。

嵐は鳴り止まない──。


するとロゼッタが掴んでいた橋は落下し姿を消した──。

音はしない──。

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異世界に妹を連れてくるんじゃなかった。 Ryoken / リョウケン @Ryoken

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