第1話
目が覚めると襲ってくるのは強烈な違和感、どうやら俺はふかふかのベッドに寝転がっているらしい。辺りを見渡すと、どうやらゴシック調?の、お姫様が暮らしていそうな白黒を基調とした無駄に豪華な部屋に飛ばされたようだ。
……ツイッチャーで見かけたことがある、こういう状況では必ず言わなければならない言葉があったことを思い出した。
「──知らない天井だ」
聞き慣れた自分の野太い声とは程遠い、鈴を転がすような声が響き渡る。誰だ、今喋ったのは。なんとも都合のいいことに、枕元には真っ黒な手鏡が置かれていた。身
体を包むやたらとフリフリした黒い服はとりあえず無視して手鏡を覗き込む。
「は──」
思わず目を奪われるような美少女がそこには居た。西洋人形のように整っている、と形容されるレベルを超えて、完成された域の美貌。白磁のように美しい肌にかかるのは、染めてもこうはならないだろう絹糸のような美しい金の髪。そして宝石のような、宇宙を凝縮したような美しい碧眼。そして頭には2本の禍々しい角。
ゴスロリとでもいうのだろうか、やたらフリフリのついた豪奢なドレスに身を包んだ神々しいまでの美少女──俺が思い描く理想の魔王っ娘がそこにはいた。
「なんでやねん……ちゃうやろこれは」
綺麗な声とは対象的なエセ関西弁に物凄い違和感を感じる。金髪ロリのテンプレのような見た目だが、胸はそこそこの膨らみであり(自分の見立てではおそらくCカップ)少女と女のちょうど中間といった感じで、色気とあどけなさが同居している。
いや確かにアンケートでは女性のタイプについてのアンケートっぽい質問が途中で続いていた。あれはただ単に好みの女の子を見繕ってくれるのかなーって軽い考えで自分の好みを答えていったのにまさか女になるとは。
好みを羅列しただけあってドストライクな容姿をしている。それだけに自分の身体だというのが残念だ。
しかしこの見た目だとあれだな、いつまでも男言葉で喋ると違和感が凄まじすぎる。他人から見ると残念どころではなさそうなので、魔王っ娘にふさわしい口調にしてみるとするか。
「ん”ん”っ、んんっ……。あー、あー。マイクテス、なのじゃ」
これだな。やはり魔王っ娘は尊大な、のじゃ口調でなければ。
──それよりも、だ。ここは一体どこなんだろうか。部屋の中をサッと見渡すと、扉はあった。豪奢な装飾のなされた、漆黒の両開き扉だ。何も考えずにとりあえず開いてみることにする。
見た目の重厚さに反して軽くあっさり開いたその先は、白い霧に包まれて先は少しも見ることが出来なかった。手を恐る恐る伸ばしてみると、何事もなくすり抜けたがなんの感触もせず空を切るばかりだ。なんというか、ここから先に進むと絶対に戻ってこれなそうな雰囲気が漂っている。進むのはもう少し情報を集めてからにしたいな。
とは言っても、部屋中漁ってみても一切なにも出てこない。生活感もないし、本当に"今出来たばかり"な感じがする。神様がいきなり外に放り出さず、落ち着かせるためにここに飛ばした、って仮定がしっくり来るな。
そんなことがわかっても事態が進展するわけではなく、俺は考えが行き詰まって再びベッドに突っ伏す。
その拍子に、服のどこかに収まっていたと思われる薄っぺらい直方体の物体がカランと大理石の床を滑る。
「これは……スマートフォン、かの? 」
手に取ってみると、それは元の世界で普及していた至って普通のスマートフォンだった。着ている服に合うような、モノトーン調のシックな感じのやつだ。
とりあえず電源を入れてみると、普通に起動を始めた。おっかなびっくりしながらも起動し終わるを待つ。
表示された背景真っ黒のホーム画面には3つのアプリアイコンが置かれている。1つめはステータス、2つめはカメラ、3つめはなぜかツイッチャーだった。
ツイッチャーとカメラがなぜ存在するのかは置いておいて、ステータスと書かれたアイコンをタップしてみる。一瞬で起動したそれは、俺のステータスを簡潔に映し出した。
・名称未設定/女
・職業/大魔王
・レベル/1(レベルアップまであと1人)
……職業、大魔王かぁ。詳細は見れないのかと思い、大魔王のところをタップしてみると、願いは叶ってちゃんと表示された。
・この世界、ダルフにおいて魔の総てを従えると言われている魔王の、更に裏で暗躍している、真の魔王とでもいうべき存在。その存在は魔王でさえ認知できていない。
大魔王は既に全てのパラメータが限界まで上昇しており、その限界を突破する為には自分を信奉する信者が必要である。必要な信者の数を満たせばレベルが上がり、限界を超えることが出来る。
なるほど。いくら限界まで成長していると言っても今の俺はレベル1。つまり魔王あたりに俺の存在がバレると普通に敵対されて滅ぼされかねないなこれは。
レベルは上げておきたいが、信者なんてどうやって作ればいいんだよ。いっそのことアイドルでも始めてやろうか。
そのあたりは未来の自分に放り投げて、名称未設定のところをタップしてみる。さすがに名前は決めておきたいからな。……そうだな、不思議(ファンタジー)な国に落ちてきた俺にぴったりな名前があるじゃないか。
「──わらわはアリス。"大魔王"アリスじゃ」
大魔王様はツイ廃 @Soranica
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