第9話 ちょっと大きな仕
ようやく船の修理が完了した。エンジンが1機増えた事により、操縦バランスが気になるところではあったが、アリシアの腕はさすがに確かだった。スルスルとドック船から出ると、そのまま宇宙に飛び出す。
「さすがに強烈ね。フルパワーを出すとバラバラになりそう……」
アリシアがポツリと漏らす。新調したばかりのGキャンセラーが唸りを上げた。
「で、どこ行くの?」
船を快調に飛ばしながらアリシアが聞く。船も直り本調子。少しデカい仕事するかな……。
「惑星ダルメシアンへ。ここの国立博物館で、今「竜王の涙」を展示しているわ」
「竜王の涙」といえば、全盗賊が憧れる宝飾品である。ダイヤモンドをあしらった豪華なティアラだが、盗みに成功した者は誰もいない。展示室の警備システムが強固な事でも有名だが、惑星ダルメシアンは気圧がやや高い上に常に希硫酸の雨が降る死の星だ。建物は全て通路で繋がっているが、外を歩くには特殊なスーツが必要になる。つまり、盗むには正攻法、つまり、正面から内部に侵入して盗むしかない。
「分かった。転移速航法準備!!」
「全システム正常。転移よし!!」
かくて、私たちは127万8千光年先の惑星ダルメシアンへと向かった。
「あ、あのさ、これかえって目立ってない?」
「そうでもないと思うけど……」
ダルメシアン宇宙港に船を係留した私たちは、変装を施して下見に出かけた。2人揃ってモヒカンタンクトップの男。そんなに目立たないと思うけどなぁ……。
たくさんの来場者の列に並んでいると、はいありました。まずはジャブ程度の通路に仕込まれた重量センサー。赤外線センサーはないが魔力センサーはある。これは、一定以上の魔力変動を検知するとアラームを鳴らすやつだ。ここでは魔法は使えない。魔力を使う武器のようなものもダメだ。これは注意。
人の流れに沿って特別展示室に入ると……はい、あるある。部屋のど真ん中に鎮座するのは「竜王の涙」。ガラスケースも何もなく、剥き出しで展示されているようで、薄い結界が張ってある。よくあるパターンだが面倒だ。ここにも魔力センサーはある。つまり、結界を解除したら鳴ってしまう。この状態で設定されているからだ。さて、どうしたものだか……。当然のように床には重量センサー、異常な熱を探知する熱量センサー、赤外線センサーにレーザーセンサーこの2つは、その前を横切るとアラームが鳴る。音を探知する音響センサー。当然監視カメラもある……考えられるだけ全て盛った感じだ。なるほど、さすが難攻不落。これは正攻法ではダメだ。禁じ手を使うしかない。
こうして、私たちは下見を終えたのだった。なお、モヒカンについては、なぜか警備員が目を反らした事を付け加えておく。
「さてと、準備は出来たわね」
各種装備が入ったバックパックを背負い、私はアリシアと共に素早く通路を突き進む。そして、最初の関門。通路に仕込まれた重量センサーだ。魔力センサーもあるので魔法は使えない。私は携帯端末を取り出し、通信ケーブルを手近な通信ポートに差し込む。
「ほいっと!!」
携帯端末の画面にはここの警備システムのログオン画面が表示される、一定周期でパスワードが変わるようだが……この程度私には何の障害もない。バックパックから薄いガラス板のようなメモリカードを携帯端末に差し込み、さささっとハッキングする。
そう、味もなにもないが、センサーを攻略出来ないなら乗っ取ってしまえという算段だ。泥棒業界では禁じ手とされている。なぜなら、銀行にダンプカーで突っ込むようなものだからだ。ことロマン派には受けが悪いのだが、効率派には比較的受けがいい。
「さて、行くよ!!」
タンとエンターキーを叩くと……なにもなかった。私はそっと重量センサーの床に足を下ろしたが、特に問題は無かった。成功だ。
「センサー無力化成功ね。アリシア、行くわよ」
彼女はうなずいて答えた。
1番シンプルな監視カメラもあるが、今着ている服は光学迷彩仕様なのでただ通路が映っているはずだ。
「さてと……」
次の用意をしようとしたところ、警備員が巡回に来た。ヤバ、忘れてた!!
こんな時は……私は「麻痺」レベルに威力を下げた拳銃を撃った。もちろん、センサーは死んでいるので反応しない。ぱたっと床に倒れた警備員を背に、私は特別展示室のロック解除に掛かった。ここのロックは3重式。パスワード、指紋、光彩……目ね。とにかく、それを素早く解除しなくてはならない。変に時間を空けてしまうと、それだけでアラームが鳴る。腕の見せ所だ。
私は無言で携帯端末のメモリカードを変えた。そして、ドアに付いているコンソールの通信ポートにケーブルを接続する。特別展示室は、ドアを閉めてしまえば一種の金庫である。厚さ100ミリの特殊鋼製。パワーでぶち破る事は出来ない。
「よし、解除!!」
ガコンと音がしてドアが開く。それと同時に中のセンサーも解除されたはずだ。
「相変わらず手際いいわねぇ」
アリシアが小さく口笛を吹きながら言った。
「まあ、このくらいは朝飯前かな。これからが勝負」
そう、最後の結界が残っている。これは独立しているらしく、ここまでの手順では解除出来なかったのだ。
「さて、ご対面っと……」
私たちは特別展示室に入った。照明が落とされた室内の真ん中にある結界。そして、その向こうにある「竜王の涙」。あと少しである。
「さてと……」
結界解除術を使ってもいいのだが、無理に触ると何が起きるか分からない。私は床にある結界発生装置の前に座り、携帯端末を接続して操作する。……危なかった。ちょっとでも触れたら爆発。同時に「竜王の涙」は金庫へと転送されるようになっていた。
「アリシア、結界に触らないでね……」
私はせっせと結界の解除に掛かる。あまり時間は掛けられない。程なくして、結界は解除された。念のため罠チェックをしたが大丈夫。私は、そっと「竜王の涙」に手を伸ばしそれを取り上げた瞬間だった。耳が痛くなるようなアラームが響き渡った。
「しまった、重量センサーか!!」
ここまでは考えていなかった。台座から持ち上げた瞬間に、アラームが鳴るような仕組みだったのである。
「逃げるわよ!!」
一応「セシル&アリシア参上!!」のプレートを置き、私たちは素早く特別展示室から飛び出た。こちらに向かって駆けてくる複数の足音が聞こえる。この通路はもう使えない、かといって他に道はない。となれば!!
私は拳銃の出力を最大にして、通路の天井に向けてぶっ放した!!
派手な破壊音と共に天井が抜け、希硫酸の雨が降り注いできた。熱っ!!
「まさかと思うけど、ここから逃げる気!?」
アリシアが悲鳴のような声が聞こえた。
「他の道はないわ。こうなったら強行するしかない!!」
特殊スーツなんて用意していない。しかし、希硫酸の雨を突っ切って港まで行くしかない!!
私はアリシアを掴んで浮遊の魔法を使い、通路の外に出た。おおよそスマートとは言えないが、これしか手段がない!!
「あーもう、なんでいつもこうなるの!!」
「ああ、お肌がお肌がぁ!?」
……うるさい!!
どうにかこうにか港に戻ると、私たちは船に飛び込み。システムに火を入れる。
「とりあえず、シャワー!!」
「私も!!」
まあ、真水で落としたところで酷い有様ではあったが、私たちは無許可で船を発進させた。もう用事は無い。とっととずらかるに限る!!
こうして、私たちは難攻不落の怪物を落としたのだった。あまり嬉しくはなかったが……。
ハンターズ ~その魔道師危険につき……3~ NEO @NEO
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