第29話 いつかどこかの海で

「…………」


 波の音が聞こえる。


 指先に冷たいものがあたる。冷たいってなんだろう。

 初めての感覚のはず。

 でも私は知っている。

 そう、冷たさも、暖かさも、楽しさも、優しさも全部全部知っている。


 極彩色に輝く素敵で綺麗な、大好きな世界を、私は知っている。


「不思議だなぁ」


 腕に力を入れ、上半身を起こす。

 目の前には白い砂、青い空と、青い海が広がっている。不規則で規則的な波の音がゆっくりと私をひたす。

 そのまま何時間でも何日間でも眺めていたかったけど、私にはしなくちゃいけないことがある事を思い出した。


 会いに行かなくちゃ。

 それは。

 大好きで優しい姉さんと、そして……。


「ますたーに、会いに行くんだ」


 遠い空で何か知らない鳥の声が響いた。

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二重螺旋のアリス Replication of the Soul 猫文字 隼人 @neko_atlachnacha

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