終焉

 陽炎は、堂々と正面から村長宅に乗り込んで行った。そして、扉を壊し、侵入。台所へ向かう。そして、コンロをカチリ、と点火する。この家のコンロがガス式である事は、前に入った時に分かっていた。そして、横に置いてあったサラダ油をそこにぶち撒けた。

 炎は、勢いよく燃え上がり、天井を焦がすまで拡大した。そこまで確認して、振り返ると、犬神がそこにいた。こんな獣が焦るのかどうか判断がつきかねるが、焦った様に、一直線に飛びかかってきた。陽炎は反時計回りに回転して、それを交わす。彼の背後には、燃え盛る壁があるわけで。犬神はそこに突っ込んでいった。頭を燃やされながらも、立ち上がろうとするも、デザートイーグルの一撃を受け、大人しくなる。

「殺してダメなら燃やしてみろ、だ。再生能力がある様だが、燃やし続ければそちらにリソースは割かれる。果たしてどの位猶予があるかは知らないがな」

 炎はいよいよ勢いを増し、台所の全てをその手中に収めんとしていた。


 陽炎の狙いはこうである。村長宅にて火災を起こす。その後、犬神が襲いかかってくるであろうから、それを殺害-と言って良いのかはさておき-し、この家を完膚なきまでに燃やし尽くす。村長は当然その後始末に回らなければいけなくなり、否が応でも姿を見せなければならない。その時に、一発の弾丸さえあれば方がつく。


 しかし、かれの狙いは外れることになる。村長の行方が知らなくなったのだ。あれから二日経ったが、それでも消息が掴めない。

「警察から、ニュース。台所から遺体が見つかったって」

「犬神のか」

「みたいだろうけど、村長の遺体の可能性が高いって」

「そうか」

 アリスからの報告は簡潔なものであった。陽炎は相変わらず敵からの攻撃を警戒していたが、それを少しは緩めても良いのかもしれない。


 アリスから、新たな情報が送られてきたのは、その翌日のことであった。

「あの遺体、村長さんのだって」

「は?いや、でも僕が射殺したのはあの犬コロだった」

「それがね。村長、昔病気をやってたらしくて、肋骨をひっくり返す大手術をしたとか。その時の手術痕が残ってたんだって」

「成る程、焼死体でも骨は残るものな」

「あと、頭部に不可解な傷が残ってけど、火災時に逃げようとして、転んで頭を打った事にしとくらしいよ」

「へぇ、あの村長にも間抜けな所があるんだな」

「また、貸しが出来たね」

 しらばっくれる陽炎に、アリスはそう言った。幾ら死体が無残な状態とはいえ、銃と転んだでは違うだろう。彼女の所から、圧力がかかった事は想像に難くない。

「うん。分かってる」

「分かれば宜しい」


 ここまでくると、流石に陽炎にも全貌が見えてきた。

 あの犬神は村長自身が変化した姿だったのだ。

「しかし、そうなるとあの大木教授の論文は何だったんだ?」

「んー、伝聞が間違って伝わったか、それとも犬神が村長に化けていたか」

「というと?」

「風習は時代と共に風化して行くものだよ。この文明開化の世の中において、生贄を捧げるなんて、そんなことが何時迄も続けられるとは思わない。昭和のどこかで廃れたんだろうね。そして、犬神は生贄が差し出されない事で飢えていた。そこで村長を騙ってそれを再開させた……詳しくはこれから調べてみようと思うけど、大方そんな所だろうね」

「そんなに血肉に飢えているなら、村を襲えば良いのに」

「飢えているのは、信仰にも、だったんでしょうね。ま、結局は倒されちゃったんだし、宝条さんにも、知らせたら?」

「うん、そうだな」

 アリスの言葉に、陽炎は頷いた。


「かくかくしかじか、という訳で、貴方の身の安全は確保されました。代金は近日中に、指定の口座まで振り込んでください」

「あぁ、有難うございます」

 何方も実感が今一無い為に、事の重大さを考えれば、なんとも言えない空気が流れていた。


「では」

 煌は一礼をして、出て行く。

 窓の外を見れば、赤い。もう夕方だ。

 閉店には、少し早いが、店じまいとしよう。

 陽炎は、電気を消し、鍵を閉め、外に出る。

 そして、赤い街へと繰り出して行った。

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異能探偵 敷島陽炎 芥流水 @noname

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