第11話 登校

 線路沿いを走るパトカーの助手席に座っていると課長は無線で様々な情報を集めた。


「あのバケモンが電車の中で暴れたとかそういう報告は入ってきてません。」

「急行ひと駅乗って高校に行く気かも知れません。魔術の儀式を学校でやっていたかも。」


課長はパトカーの無線に怒鳴った。


「県立T高校の人間全員避難させろ!あと駅周辺にも人寄せるな!」


その声を聞きながら先代の勇者の記憶が少しだけ見えた。オフシーズンで使っていないプールの横の魔方陣に先代の勇者は召喚されたようだ。学校近くでサイレンを消したパトカーは校門から駐車場に滑り込んだ。パトカーの助手席から長剣を抱えて降りると、校門に立ち通学路を見渡す。引きずるように歩いてくる藤塚が見える。


「遅刻ですよ藤塚先生。」


ジュラルミンの盾を持った機動隊が駅から高校までの通学路を遠巻きに封鎖している。


「あんなのがいるなら、警察にもバズーカぐらい欲しいよなぁ…」


僕は藤塚の方へ歩み寄ると、意外にも僕に気づかない様子だ。見えていないのか。


「プール…プールへ行けば…」


一瞬、この様子なら警察が逮捕しても問題ないのではないかと思いさえしたが、回復した後、何をしでかすかわからない。


「藤塚先生。」


気付いたようだ。僕は袈裟懸けに藤塚をバッサリ切った。後に聞いた話によると、火葬にしたものの灰は残らなかったそうだ。


 さて、先代の勇者の持ち物の中には翻訳の護符といくらかの純金、そして古びた皮の巻物があった。巻物は全て見知らぬ文字で記述されていたが、末尾には漢字で「佐村源一郎」と記されていた。僕は未成年ながら自殺ほう助と過剰防衛、銃刀法違反で有罪判決を受け執行猶予の身となった。


「佐村源一郎、これが剣の登録証だ。これが無いと銃刀法違反でやられる。あと、これ。…恩赦だ。執行猶予は今日で終わり。」

「ずいぶん緩いもんですね。2人殺してますよ。」


課長と呼ばれていた男は磯野という。磯野は頭を掻くと「裁判するのは警察じゃないからな」と言った。


「あと、移動になった。」

「左遷ですか?」

「ああ、課長から班長。県警危機管理課人型災害対策班班長。4人殉職したらさすがに考えるわな。」

「それはおヒマそうな部署で」


少し考えて茶化したがそうでもないらしい。


「藤塚の切り落とした右手が見つかんないんだよね。助けてくんないかな。」


ため息をついて、僕は磯野に背を向けた。


「よろしく頼むわ!まだしばらくこっちの世界にいるんだろ!?」


高校のプールは今も厳重に封鎖されている。薄気味悪さを誰しもまだ感じている。


「高校の卒業まではなんとかいますよ。藤塚の右手も始末しなきゃ。」


終~異世界から

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異世界から 古川モトイ @sunoise

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