~プロローグ~
小さい頃の夢は何か、と問われればなんと答えるだろうか。そりゃ年代の違いもあるだろうが、基本的にはそうそうに変わることではない。
警察官、消防士、パイロット、アイドル等々――。挙げれば幾つもの『将来の夢』がある、幼い瞳にキラキラと宿る未来への期待は、その子にとっての生きる糧とも言えるだろう。
そして俺にもそんな『将来の夢』があった。今となっては学校の課題と、総二時間にも及ぶ大学までの道のりによる弊害で、くすみ濁りきってしまった瞳だが――夢があったのだ。
俺は『ヒーロー』になりたかった。
平日の夕方頃から、または日曜の朝からテレビで放映される特撮、アニメのヒーローに。格好良いバトルスーツを着飾り悪党を懲らしめ、伝説の剣を携え頼もしい仲間達と共に悪の魔王を打倒し、市民を助け、姫を助け、世界を救い――そして最後はハッピーエンド。
なんて事ない夢だ。男子なら誰もが一度は憧れる夢の一つだろう。
しかし悲しきことかな、現実様はそうは問屋を卸さない。ましてやこんな時代である。インターネット全盛のこの時代、憧れを抱くヒーロー、英雄を知りたいと親のパソコンを借り検索をしてみれば、そこに映し出されるのは『今回の作画が酷すぎる』、『脚本の○○はもうオワコン』、『担当声優声合わなすぎ、枕だろ』、『炎上! 炎上! なんか知らんが騒げ!』――こんなばかりだ。
なんて事でしょう、少年の夢は力尽きた! セーブはしますか?
するか馬鹿。リセットを要求する。
まあ、しかしそれは仕方ないことだ。遅かれ早かれこのような現実を知ってしまうのは時間の問題だったのだ。制作会社と脚本、何より制作費の大切さを知った俺は、そっとパソコンを閉じた。人生というのはリセットなんてなく、ましてや任意セーブなんて代物もなく、強制オートセーブしかない。
そんな事で小学低学年にて第一の夢は破れた俺であった。
ならば次の夢は何にしようか? 幼い僕にはまだまだ夢を語る権利がある。世界は広く、星の数の未来が待っている。なんて素晴らしい世界だ! ――なんて上昇思考にもなれず、はたまた楽天思考も望めぬ幼い俺は、一度『夢』を考えることを放棄し、第一の夢たる『ヒーロー』は趣味へと退化させたのである。
そんな俺も中学、高校へと無事進学を果たし、友人と近場の古本屋で誰がエロ本を買うか悩み、ネット通販でエロ本を買えば親に見つかり折檻され、同学年の高嶺の花に恋煩い、しかし告白も出来ずに別々の学校へ通う事となりながら、去年の春には大学へと無事進学出来た。
順風満帆――というにはいささか平凡ではあるが、しかしそれなりに楽しく、幸せに過ごせたと思える。
しかし、『次の夢』は見つからない。
中学、高校へと進学しても、友人たちが将来についての話しに華咲かせても、担任教師からの進路希望調査の催促をされようが、どうにも『次の夢』は見つからない。
「お前、進路はどうするつもりだ?」
「うん、まあ、とりあえず大学には進学したいかな」
そんな親との会話。親父はどんな顔をしていたか覚えていない。いや、きっと見ていないのだろう。何か言われそうで、何か諭されそうで、俺は顔を伏せていたのだろう。
親父は俺に言った。
「そうか」
その発言が『ゆっくりと考えるんだ』という意味か『早くしろ、間に合わなくなっても知らんぞ』という意味なのか、未だに俺は分かっていない。
奥さん、このゴリラおいくらですか? ~便意系男子の苦難と苦悩は『臭い』もの~ 秋刀魚ノ骨 @sanmanohone
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