大罪の魔女
黒助
第1話 罪は重い
バッカス
「あぁ~あ。お前やっちゃったなぁ~……どうすんの?」
ハルト
「はぁ~……」
俺の名前はハルト=ジュラフレイム。
アリーアル王国騎士団守護部隊第二班、班長である。
だが俺は今、その称号すら剥奪されかけている。
バッカス
「はぁ~~じゃねぇよ。勘弁してくれよ、マジで。俺これから綺麗なお姉ちゃんがいっぱい居る店、行く予定だったのによぉ~……なぁ~マジで勘弁してくれよ。ハルちゃん~」
うぜぇ……。"俺の立場も考えてよ~察してくれよ~顔"が余計に腹立たしい。
俺の前に立つこの男はスペンサー=バッカス。
アリーアル王国騎士団守護部隊隊長である。つまりは俺の上司。その上司が露骨にダルそうな声を上げ俺の前に立っている。
時刻は夕方。窓から入ってくる西日が隊長のハゲかかった頭に反射して眩しい。
バッカス
「あれ? お前、今。失礼なこと考えてね? 怒るよ?」
ハルト
「いや~そんなことないですよ」
エスパーかお前は。俺の視線で何を考えているのか大方の予想が出来たらしい。
バッカス
「そんなことよりさぁ~。お前、これマジでどうするの? このままいくとお前、”流罪”だよ」
ハルト
「はぁ!? 流罪!? そりゃ大げさだろ!」
バッカス
「あれ? ため口? 今、ため口じゃなかったか?」
ハルト
「いや、気のせいでしょ」
そんなこと、どうでもいいだろ。
流罪(るざい)ってマジかよ。
俺達の住んでいるこの都市。天空都市は宙に浮いている。
昔は大きな水溜りに浮かぶ小さな島国だったらしいが大罪の魔女と呼ばれる魔女がその生命魔法を使いこの地を宙に上げたと言われている
あくまで言い伝えだ。1000年前の人間なんて今、この世にいないし。嘘かホントかなんて誰にも分からない。
ただ……この都市は浮いている。それだけは事実だ。
流罪とは文字通り”島流し”つまりは……必要最低限の荷物だけを持たされこの天空都市から下界に落とされる。
そしてこの1000年、下界から戻ってきた者は居ない。いいや……下界なんかホントに存在しているかもわからない。
俺達、人間はこの1000年、天空都市だけで生活して来たんだからな。……下界と貿易してるなんて聞いたこともない。
簡単に言えば……死刑だ。
ハルト
「おいおい流石にそりゃ厳し過ぎるでしょ! たった一回、任務に失敗しただけだぜ?」
バッカス
「……俺もそう言ったが……相手が悪い。貴族の豚はカンカンだぞ。あの若造を流罪にせんと許さんっと……今も怒鳴り散らしているらしい
ハルト
「……マジかよ」
そう。俺は今朝、貴族の娘の警護を頼まれた。
だが俺は突如、俺の前に現れた睡魔という魔物に襲われ……気がつけば夢の中に居た。
睡魔を撃退した時、既に時遅し……貴族の娘は……盗賊に拉致されてしまった。
#バッカス
「たまたま通りかかった。エンジェルズが盗賊を始末したからいいものの……あのまま国境を越えてたら俺の首まで終わってたぞ」
ハルト
「はいはい。分かってるよ」
バッカス
「あれ? タメ口? やっぱりタメ口だよね? お前」
ハルト
「うそうそ、冗談ですよ。でもその貴族の子は無事だったわけでしょ? 降格とかならまだしも流罪って……」
確かに俺は罪を犯した。民を守る存在のアリーアル王国騎士団守護部隊の俺が任務中に居眠り。
そしてその間に護衛対象は拉致され、挙句の果てには騎士団の精鋭部隊エンジェルズに助けられたんだから無事ではすまない。
そんなこと分かってる。でも流石に厳し過ぎるだろ。
バッカス
「まぁ……他に道があると言えば、ある」
ハルト
「マジで?」
バッカス
「あれ? 今……」
ハルト
「ため口でしたね! すいません。っでその道ってなんですか?」
どんな罰でも流罪よりはマシだろ。
多少、厄介ごとかもしれないけど死ぬよりはいい。
バッカス
「騎士団で新たに編成される新部隊。特務隊の隊長になるなら……この件は不問してくれるそうだ」
ハルト
「新部隊……特務隊? その隊長に俺が?」
バッカス
「あぁ。……どうする? やるか?」
なんだそれ。降格じゃなくて罪滅ぼしが昇格?……冗談だろ。
しかも何だよ、特務隊って……初耳だぞ。怪しい……怪し過ぎるだろ。
でも俺にそんなこと言っている余裕が無いのも事実。
流罪か特務隊隊長……だったら。
ハルト
「やりますよ」
バッカス
「だろうな。……あぁ~良かった。お前がこれ断ったら俺が特務隊隊長だったんだよ? あぁ~よかった。お前が受けてくれて。あぁ~~良かった、良かった」
うぜぇ……。
その心から安堵した顔が鬱陶しくてしょうがない。
バッカス
「まぁ詳しいことは明日、エンジェルズの隊長に聞いてくれ! じゃぁ俺はこれで失礼! アディ……オス!!」
ハルト
「はぁ? そんな適当な!? ちょっとたいちょ……」
バッカス
「待ってろよ! マリア! マルシア! ゲヘトニッヒ!!! 今から行くからよぉおおお!!」
ハルト
「エロじじいが……。人の気もしらないで。てかゲヘトニッヒってどんな女だよ……」
特務隊か……嫌な予感しかしねぇけど。まぁなるようになるだろう。
俺も帰るか。
相変わらずデカい隊舎だな。
俺は隊舎の玄関の前で立ち止まった。
アリーアル王国騎士団は7つの隊で構成されている。俺が所属しているのが守護隊。
基本的に町の警護。物輸の護衛や、まぁ戦うのではなく守ることに特化した部隊だ。力のない者を守るのだから当然、騎士団の中では一番人数が多い。
だから騎士団の中では一番、民と関わることが多くあり、守護隊長スペンサー=バッカスはもはや町の顔。このアリーアル王国でバッカス隊長を知らない者はいないであろう。
25年以上も守護隊で勤務しているんだから当然と言えば当然であろう。そしてそのストレスでバッカス隊長の髪は……可哀想に。
いや、ホントに可哀想なのは俺だ。……守護隊でも貴族の護衛なんて殆ど回ってこない仕事だ。基本的に貴族関係の仕事は全部、精鋭部隊またの名をエンジェルズが請け負うはず、なのに何で今回に限って。
考えてもしょうがないか。とりあえず帰ろう。
おばちゃん
「あら、ハルちゃん今帰りかい?」
ハルト
「……あぁ、まぁね」
帰り道、一人のおばちゃんが俺に声をかけてきた。
今、俺に話しかけてきたおばちゃんは特に親しい間柄というわけではない。
守護隊に配属されて、まず一番最初にする仕事は町の警護だ。地理を覚えたり町の人に顔を覚えてもらったりと色々理由はある。
なので、町の人に声をかけられることは少なくない。……だが、今はそんな気分じゃない。
特務隊って……気が重い。
おばちゃん
「あら、元気ないわねぇ~。またお惣菜、買いに来な。安くするからさ」
ハルト
「……あぁ。また来るよ」
ははは……それまで俺が生きていたら……な。
考えてもしょうがない。
なるようにしかならん。よし……今日は帰って寝よう。
朝、起きたらきっと元通りだ。
大罪の魔女 黒助 @kurosuke461
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