昨日見た夢の続き

@gliese580

一話

昨日、不思議な夢を見た。

昨日は僕の誕生日だったんだ。

それで、僕は二十歳になった。

そういう区切りの年は、やけに色のはっきりした、どこか奇妙な夢を見る。

それが普通なのかもしれないと、昨日の僕は考えていた。

しかし今朝から理解できない事が起こっている。いや、むしろ何も起こっていない。

というより、何も起こせない。

ただ、昨日の夢を日記を書くことができるのでそうしているにすぎない。


初めてあの夢を見たのは確か5歳の時だったと思う。それも、あの日は誕生日だったはずだ。

はっきりとは覚えていないけど、夢の中で目を開けたとき、最初に目に入ったのは白衣を来た男だった。

その男と目が合うと、男は「おはよう、君の名前を聞かせてくれるかい?」と突然聞いてきたのだ。その時の僕はなんの躊躇いもなく自分の名前を名乗った。

確か、最初の夢はこんな感じ。それ以外にも何か聞かれたような気がするけど、15年も前のことだ、あまり覚えていない。


次にこの夢を見たのは10歳の誕生日だ。目を覚まして辺りを見回すと、どこかの研究所か病室のような白を基調とした部屋で、ガラス張りの窓とパソコンがいくつか並んでいるのが見えた。

白衣の男がこちらを見ているのに気づいた僕は、前にもこんなことがあったな、と思った。

男は「おはよう、君の名前を聞かせてくれるかい?」と言う。これにも既視感を覚えたが、やはりその時の僕は素直に名を教えた。

「どこの学校に通っている?」「友達の名前を教えてくれ。」などと聞かれた事を覚えている。


そして、……昨日だ。

僕は二十歳になった。

目を開けたとき最初に思ったのは「また、この夢か」。

男が1人、傍らに座ってこちらを見ている。

周りには機械工学部の僕も見たことのないマシンが備えられていた。

「おはよう、君の名前を聞かせてくれるか?」と、もはやお決まりの台詞を男が吐いた。

この夢は三度目だ、僕も何か言い返してみたくなった。「貴方こそ誰ですか、ここはどこです?」と。

しかし、僕の口から出たのは自分の名前。その後も今所属している学校や学部を聞かれ、全て答えた。


こんな単純な夢でも三回も見ると気味が悪い。

昨日、朝早くに起きた僕はあの妙に実体感のある色のついた夢を頭から消し去ろうとした。


今朝は大学の講義で面白い物を見た。人工の人魂形成装置の発案図だ。

僕は以前から高度な人工知能を搭載することによって中身まで人と見分けがつかないようなアンドロイドを作ることが夢だった。

しかし、僕の夢であることを除いてもその発案図には興味を引かれた。

そこにかかれている完成予想図が昨日見た夢の中のマシンにそっくりだったからだ。

ますます気味が悪くなった僕は、友人にその事を相談しようと考えた。


考えたまでは良かった。


しかしどういう訳か、僕の口からはあの夢に関する言葉を一言も発する事が出来なかった。

僕に唯一できることは、この日記を書くことだけだった。


追記:

先程、書き上げた日記を家族や友人に見せようと考えたが、日記を持ち上げることも人を呼ぶことも出来なかった。



________________



あれから20年が過ぎた。私は今や40歳になる。なぜ今更この日記を引っ張り出してきたかというと、再びあの夢を見たからに他ならない。

二十歳の誕生日以来、一度も見ることが無かったあの夢のことを、私は今の今まですっかり忘れてしまっていた。

今回見た夢も、以前見た夢とあまり代わり映えがなかった。

また、見知らぬ研究室で見知らぬ男が名前を訪ねてくる。以前と似たような問答。男は私の職業を聞いて安堵したような、納得したような表情を見せた。

そして背後に見えるマシン、人魂形成装置。これは、昨年私が完成させたそれととても良く似ていた。

その装置は、人工知能に人ひとりの持つ記憶を全て送り込むことでその人間の持つ人格と魂を形成させようというものだった。

……のだが、私が作った装置は予想していた効果を見せず、日の光を浴びることは遂に無かった。


違和感といえば、この夢を見始めた頃からずっと抱いていた謎もあった。白衣の男の顔だ。似ている、似ているとは思っていたが、今年で40になった私からすれば、それはもはや確信に変わる見た目をしていた。


____私だ。


この白衣の男は紛れもなく私と言えた。目元からひげの生えかた、仕草まで私とそっくりだ。

それに気づいたとき突然気分が悪くなってきて、目を開けたときにはいつものベッドの上にいた。



___________



今年で私は60になる。

例の夢はあれから見ていない。

私が昔作っていた装置、人魂形成装置だが、あれには重大な見落としがあった。時間、が必要だったのだ。つまり、人が生きてきた時間そのものを人工知能に送ることで、初めて人格として成り立つことが判明した。

だが、もう遅い。私がこの研究の成果を目にすることはもう無いだろう。

せめて最後の実験に私自身の魂を用いたいと考えた。

私はこの研究に人生の多くを割いてきた。数年前から重い病にかかり、寿命もあと僅かだと診断されたが、私はどうしてもこの研究を完成させたかったのだ。命を削ってまで研究をする様を息子には何度も怒られもしたが、今となってはあいつも認めてくれている。

この研究は息子に引き継ぐことにする。


最後の仕事をついに私は終わらせた。これから、私の生まれてから死ぬまでの記憶がコピーされこのアンドロイドに送り込まれることだろう。

最後にこの日記を書き上げて人生を終えることとする。



……



『北大路博士の研究メモ』

薄く開いた目で最初に捉えたものは、白衣の男だった。

その男が何かを伝えようと口を開いた。

「おはよう、とうさん。誕生日おめでとう。」


私がいつも使っていた机を何度も調べたが、あの日記は見つからなかった。

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