「地に足をつけて生きる」という言葉がある。
少し調べてみればそれは、浮足立たずにしっかり着実に進む、だとかそんな感じで書かれている。
私事になるが、私は二十もそこそこ過ぎた辺りまで、この意味が理解っていなかった。いや、わかっていると錯覚していた。
今過去を振り返ってみれば、私は、なんとも頼りないフワフワとした道を危なっかしく渡っていたのだなあ、と感じてしまう。当時はそれと気づかなかったけれど。まるで羊毛を厚く敷いたモコモコ道だった訳だ。
それは心の居場所だ。ストンと嵌まる己の真実の居場所。
この作品の「ぎゅうちゃん」という男は不安を抱えながらそれを求めている。彼だけじゃない。読者である皆も同じ不安がどこかしらにあるんじゃないだろうか。
この作品を読んで、今一度己に問いかけてみれば、なにか違った感覚を味わえるのではないか。
そう感じました。偉そうにすいません。
人気者の教師、ぎゅうちゃん。
ぎゅうちゃんが、女子校で生徒たちを見守る様子から静かに物語は始まります。
だけど、生徒をのほほんと見守るばかりではなく、学校の様々な光景が見られるという味付けが施されています。
『びっくりするようなイベントは起こりません。』
あらすじにはそう書いてあります。
確かに、爆弾が爆発するような、一瞬でなにもかもが一変する劇的な展開はないようです。
ですがこの文面から無味の物語を想像してしまったとしたら、それは誤解です。
びっくりさせる気がないだけで、なにも起こらないわけじゃありません。
時間が流れれば、それと同じだけ進む物語と日常。
そして主人公の「ぎゅうちゃん」というあだ名を始めとする、女子校や生物室という舞台から芽を出す言葉たち。
それらがまるで柔らかな水流のように読者をくすぐります。
その水流に体をほぐしてもらうイメージで、ゆったりと読んで楽しめる作品です。