羊飼い あとがき

 羊飼いを読了いただき、ありがとうございます。


 本小説。最初は、発話の『羊飼い』しかありませんでした。クリスマス向けのオムニバス作話イベントに参加するため、読み切り短編として書き下ろしたものなんです。その後、ぎゅうちゃんというキャラクターの羊毛のような手触りが気に入って、えとわで『ユーカリ』、『木漏れ日』、そしてエンディングストーリーの『花の一つ、一つの花』をぽつぽつと書き足しました。前後関係が分からなくても、その話単独で読めるようにする……えとわで自分自身に課しているノルマをクリアする形で書き上げ、四つばらばらでぽんと放り出してあったんです。

 でも、どうにも消化不良感が残っていまして。それならいっそ補間して、全部つなげちゃえと。かっちりしたシナリオに乗せて動かす形にはしませんでしたので、わたしの書いた話としてはかなり異質かもしれません。


◇ ◇ ◇


 ぎゅうちゃんのキャラクター。自他の間で極めて大きなズレがあります。彼は決して従順な性格ではありません。どんなに人当たりがふわりと柔らかくても、それは彼の一部分に過ぎないんです。

 周囲の反対を押し切って学生結婚という道を選んだこと。将来の見通しが不鮮明というハンデを抱えて悩んでいること。研究者になるという夢をどうしても諦められないこと。常に困難な現実に向き合わなくてはならないぎゅうちゃんの意識は、ぎざぎざに尖っているんです。ただ、そのぎざぎざを決して他人に向けません。そこに彼の優しさと危うさがあります。

 器用ではないはずなのに教師を過不足なくこなせている自分自身に驚きつつ、でも研究者となる夢を捨て切れない。人をふんわり温める空気を持っていながら、自らはその空気で温まることができない。そういうジレンマを、一連のスケッチとして書き並べて見ました。


 タイトルが羊飼いとなっていますが、最後のセリフ通りで、ぎゅうちゃんは生徒を統べる羊飼いにはなれませんでした。でも、彼は最後まで羊飼いだったんですよ。自分という羊の、ね。

 自分に嘘をつきたくない。大勢の羊を導くよりも、一匹の羊としての己を律する羊飼いでありたい。ぎゅうちゃんの最後の決断はそういう強い意志に基づいて行われたと、わたしはそう考えています。


 全体を貫くトーンをあっさり薄味にしましたが、内包されているものは決してあっさりではありません。人生の重大な決断が、いつもいつも派手なドラマを引き連れてくるわけではないんです。淡々と流れる時の中に少しだけ身を投じ、あるいは流され、あるいは逆らい、いつしか対岸に上がる。そういう転機の形があってもいいのかなと。


 点描画の一つ一つのドットは、至近で見ればただの色点に過ぎません。そういう色点としての淡い日々が、総体となって初めてわたしたちに見せる姿。みなさんには、どのようなぎゅうちゃんの姿が見えたでしょうか。


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羊飼い 水円 岳 @mizomer

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