三切れ目・雨が降りますね
ざくざく音を立てて、雨が降っている。もし地球をすっかり雲が覆ってしまって、どこに行っても雨が降ったとしたら、地球はいったいどれくらいで原始と同じ状態になるだろう。そこまで考えて思った。水の底に公衆トイレがあるというのは、とても不便そうだ。 ――ありえない話
雨の降る暗い夜に、バスの最後の乗客になる。一番後ろの座席で、飲み干したコーヒー缶をいじりぼんやりと揺られるうちに、降りるバス停は近づいてくる。降車ボタンを押すと車内のランプがいっせいに光って、僕は暗闇に赤く浮かび上がる船にたった一人乗る、勇気ある少年になるのだ。 ――270円の冒険
「だめだ、嫌なんだ、出てってくれ、頼むから、」そう叫んで頭を抱え、崩れ落ちるように座り込んだ彼の姿を忘れることができない。あんなに力強く見えた背中は丸まって頼りなく、大きくて筋張った手も震えているようだった。僕は困惑していた。冷たい雨の降る、夏の終わりのことだ。 ――見たくなかった
学校が水の底に沈んだ。青く染まる退屈な建物に残っている人は誰もいない。僕は壁に手をついて歩きながら水面を見上げた。赤い魚や黒い魚や黄色い魚がゆっくりと泳いでいる。いつまでもこのままならいいのに。水圧で開かない電話ボックスの中に、どうやったのか蛸が入り込んでいる。 ――えら呼吸
雨の降る夜は嫌いだ。たてつけの悪い網戸が揺れる音も、ベランダの柵に水滴が叩きつけられる音も、向かいの大通りで車が跳ね上げる水しぶきの音も、いらだつような寂しいような気持ちにさせられるからだ。そしてきっとそれは、ここにいないあなたと過ごしたあの夜を思い出すからだ。 ――催涙雨
考えがまとまらないこの感じは、あれに似ている。灰色の空は、ここのところずっと気持ちを決めきらない様子で、雨を降らせたり急にやめたり、低く落ちてくるかと思えば手の届かない天井を作ってみたりしている。「悩んだって無駄だよ、」誰かの言葉がよぎる。「君の場合は特にね」。 ――曇天の続く
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