四切れ目・ちょっと重たいでしょうか
電気を消した真っ暗な部屋で互いの顔も見えないまま、ベッドの上に二人で寝転がっている。なんとなく端に寄っているのに意味はない。良識とか理性とか自制心とか、ヒトが人になるための何かがそうさせているだけで。一度触れればきっと、腐りかけた甘い果実のように溶けあうだろう。 ――ひとであること
何時間も、時間がとろとろと溶けていくのを眺めている。繋いでいるわけではない手は、それでも何かを求めているかのように離れることはない。僕らがこうしているのを知る人はいなくて、不確実で不健全な関係はこの部屋の中でだけ成立していて、僕らは崩壊した楽園の住人に似ている。 ――後ろめたさの鎖
まるで愛し合う恋人たちのように――この「まるで」と「ように」がどれだけ重たいものなのか、私たちは把握できないでいる。ふとした瞬間にくぐり抜けてしまったけれど、計算違いで身体の上に落ちてきたそれを持ち上げることは不可能だった。私たちに下された鉄槌なのかもしれない。 ――想像以上の
「ぼくはきみを、」言いかけてやめた言葉のその先を、聞いたけれど聞きたくなくて、知っていたけど知りたくなくて、だってそれはわたしがあなたを傷つけた証拠にほかならないから。ずるいわたしは、ひどいわたしは、あなたを傷つけたなんて思いたくなくて、だってわたしはあなたを、 ――聞こえないふり
一生のお願い。君が死ぬ一日前に僕を殺してください。君の最初の一日を僕は知らないから、君の最後の一日を僕でいっぱいにしたい。君の最後の一日を僕のために使ってほしい。君の最後の一日に僕のことを考えてほしい。このわがままを聞いてもらえるなら、君の他にもう何もいらない。 ――絶対言わない
人生が何回かあったら、そのうち一回は僕の駄目さを肯定してくれる誰かの、その駄目さを僕が肯定したい。そうして底の見えない駄目さに沈んで、溺れていることに気付かないで、あるいは気付かないふりをして、夏休みだけを何度も繰り返したい。致死量の眠りにふたりでくるまりたい。 ――致死量の眠り
こんな僕だからいいのだと君は笑う。その顔はとろりとした蜜のように甘やかで、きっと誰でも虜にする。その頬に毒を塗って、君に触れるものをみんな殺して、最後に毒を塗った指で君の唇に触れてふたりで死んでしまいたいと、溶けた脳が口からこぼれそうになる。 ――劇薬のきみ
131文字とチョコレートケーキ 砂原さばく @saharasabaku
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