第6話 『闇と光』
アヴァロンの本部広さは予想以上のものだった。確かに恐ろしいほど広いと言うのは理解していたが、まさかここまでとは思っていなかった。
闘技場に会議室、談話室に応接室、しまいには隠し扉が5件以上ある。そしえその先には本部を取り囲む壁の外側にある、結界の作動装置が置かれる部屋があった。リリスの予想通りいつの間にか日が暮れている。
「最初のドタバタがなければもう少し早く終わるはずだったんだがな。」
「もうヘトヘト。幾ら何でも広すぎないかこの城。」
「それも仕方ないだろう。ここは元々世界各国から集められた優秀な魔術師を育てるための育成施設だったのだから。」
「優秀な魔術師の育成施設?それって」
「そう。今から100年前、世界大戦が終わる頃に突如として発生した"7匹の魔獣"によって人類の数は激減する。」
《7つの魔獣》。100年前に現れた規格外な体と能力を持つ魔物達。そしてそれらには一匹ずつ個体名称が与えられている。
《憤怒のサタン》 《嫉妬のレヴィアタン》
《怠惰のベルフェゴール》《強欲のマモン》
《暴食のベルゼブブ》《色欲のアスモデウス》
《傲慢のルシファー》
この7つの魔獣こそが世界を破滅に導く怪物7つ達なのである。
「魔獣達の力は絶望的で並み魔術師では到底歯が立たなかったのだ。そこで各国は、自らの国が保持する優秀な魔術師を100名ほど選抜し、一箇所に集めて育成した。それがこの城が建城された理由だ。そして1200名のの集められた魔術師には特別な称号を与えられた。それが」
「アヴァロン。昔は集団としてではなく、個人宛に与えられた称号だったのか。」
「そうだ、そして今現在、その数25名にまで減らして《色欲》と『怠惰》の討伐は完了している。もちろんこの100年間、殉職しては足してを繰り返しているため、その犠牲は元の数1200など軽く超えるだろう』
恐ろしかった。"骸"にも凄まじい恐怖を感じていたが、犠牲から見ても"7つの魔獣"はそれを超える。
「いずれは戦わねばいけないのか」
「それが最初のアヴァロンが結成された理由でもあるしな。ただ今はその話は置いておこう。グリューネルト卿が待っていらっしゃる」
「そうだな、早く行こう」
そう今は一刻も早くグリューネルトの元へ行かなくてはならない。いずれ来る戦いに関しても、今日の会談が大きな意味を成す事はレヴィにもわかっていた。そしてそれがこれからの自分の歩みに繋がることも。
グリューネルトいる塔に向かう途中、前々に気になっていた事をリリスに聞いた。
「前から気になっていたんだけど、どうしてリリスはアヴァロンに入ったんだ?そりゃ、魔術師としての才能があったからってものあるだろうけど、なんかリリスには他の理由がありそうだなと思って。」
「うーん、説明すると長くなるが、大きな理由は私の家事情にあるな。」
「家事情?」
「あぁ、知ってると思うが私の名はリリス・クロムウェルだ。クロムウェル家は世界五大貴族
とまではいかないが、それでもそこそこ有名な家系でな。
うちの家系のものは皆、水魔法への適性が特に高くてな、自分はその中でも一際適性が高く、100年に1度の天才などと呼ばれていた」
「なんか嫌な奴だな」
「話を最後まできけ!そんなこともあって、兄や姉から大分嫌われていた。両親の目がないところでは、散々罵声を浴びせられ、しまいには叩かれる始末だった。
しかし、私が16歳の時。両親の元へアヴァロンからの使者が来たんだ。彼らは私をアヴァロンへ誘いに来たのだと、両親と話してるのを聞いた。
両親は娘はやらんと必死に断り続けたが、私はこの家を出て行く機会だと思い、その場に乱入してアヴァロンへ連れて言ってくれと懇願した。両親は絶望しただろうな。だが私の決意は変わらなかった。
それからはまぁ、色々あって今に至るわけだが、他に何か言いたいことはあるか?」
1つだけ、気になることがあった。
「その後、ご両親とは連絡を取ったりはしたのか?」
「いいやしてないとも。何せもう、この世にはいないんだから。お前が私の実家を知らないのも無理ないだろう。私がアヴァロンに入団して間も無く、私の家族は"骸"の襲撃を受け皆殺しにされてしまった。」
絶句した。まさかリリスが自分と同じ境遇にあるとは。そしてそれと同時に、"骸"対して激しい憤りがこみ上げてくる。
「そんな顔をするな。もう昔の事だ。今はもう気にしていない。それに、お前だって私と同じかそれ以上の悲しみを味わっただろ?」
「悔しくはないのか?」
「悔しいさ、家族が皆殺しにされた事も、私がその場にいなかったことも。すごく後悔してる。でも、それを嘆いても始まらないんだ。嘆いている暇があるなら、力をつけろ。誰にも負けない、絶対的な力を。そして、いつか必ず」
リリスは深呼吸をし、
「復讐してやる」
レヴィはこの時初めて。リリスに根をはる闇の深さに、本当の意味で恐怖した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本部の左端にある、本部の中で最も高い塔の最上階にグリューネルトの部屋がある。正直なところ、ここまで上がって来るのに大分苦労した。因みに、リリスの様子はいつも通りに戻っていた。
自分の知るリリスが目の前のいる事安堵する。しかしリリスの様子は戻っていても、レヴィの様子は急で尚且つ終わりの見えない階段によっておかしくなっている。
「ルーマス卿には連絡を送っておいた。先に始めていてくれとのこととだ」
「全く、階段きつすぎだろ!あの爺さんは一体どうやってここから上り下りしてるだ!」
「おい!爺さんとは失礼だぞ!それに、グリューネルト卿は浮遊魔法が使えるから、そんな心配はいらん」
「どんだけ規格外な爺さんなんだ。浮遊魔法って言えば、世界10大魔法の1つじゃないか。」
そう、浮遊魔法はこの世界でも特に習得の難しい10個のうちの1つである。絵本の世界では、魔術師が飛ぶなどよくある話だが、現実はそうは甘くない。浮遊魔法、それは即ち重力制御魔法の完成形だ。
重力魔法というのは文字通り、自分やその他に関わる全ての重力に干渉でき、自在に操るという反則魔法だ。習得難易度から禁忌とまで言われてるため、今時
重力制御魔法に手を出すものがいない。
その魔法に手を出し、あまつさえ完璧にするなど人間技ではない。
「あの方の魔法への執着は凄まじいものだ。好奇心旺盛と言えばいいのか、とにかく使いたいと思った魔法にはとことん手を出す。例えどんなに危険であったとしてもだ」
「なるほどな、昔の俺だったら死に急いでるようにしか見えないと言ったかもしれない」
自分は魔法が嫌いだった。魔法の力でこの世界での立場が確立してしまう。そんな魔法が大嫌いだった。
「前より今だ。前向いて歩き続けるのだろう?ならばよいではないか。大丈夫、お前ならきっと、希望の光をみんなに見せてくれる魔術師になってくれるさ」
そうだった。以前の事など考えても仕方ない。今は今だ。
「そうだな。そう自分で決めたんだもんな」
グリューネルトの部屋の前に着く。そしてぐっと背伸びをして、深呼吸をした。
「さてと、大分待たせちまったし、そろそろ行くか!」
「あぁ!」
ドアノブに手をかけ扉を引き開けた。そして、そこには今まで見たこのない世界が広がっていた。
パンドラの箱 〜其の者、最後の希望なり〜 里見零 @satozero7724
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。パンドラの箱 〜其の者、最後の希望なり〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます