第5話 『新しき朝、新たなる出会い』
不思議な夢を見た。それは辺りを見回しても永遠に終わる事のない緑の木々世界が続くだけである。しかし、少し先に一本の木が生えていた。
しかしその木の根元の大地は、干ばつの後の様にそこら中にヒビが入っていた。そして、一本だけ生えている木は最早枯れていてみすぼらしい。その木に触れた瞬間、木の中心に歯車の様な模様が浮かび上がってきた。
これは夢だと直ぐに気づいたが、それと同時にある異変に気付く。
(この夢、前はこの紋章に触れた瞬間、一気に世界が崩壊したよな)
以前見た夢とは明らかに異なる点に疑問を浮かべながらも、取り敢えずその木を隈なく調べて見た。
やはり、何処を見ても枯れているだけ。紋章が浮かんでる以外に特に変わった点はない。打つ手が無くなり、ため息を吐いたその時だった。
再び世界が崩壊した。
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目が覚めるとそこは、アヴァロンの本部に備えられた自室にいた。昨日は歓迎パーティー(といっても祝ってくれたのはリリスだけであったが)で夜遅くまで起きていたため、まだ少し眠い。
「ふわぁぁあぁ」
大きな欠伸をしていると、外からリリスの声が聞こえる。
「おーい、レヴィ。もう朝だぞ。そろそろ起きないと朝食に間に合わないから早く起きてこい。」
昨日あれだけ遅くまで起きていたというのに、眠気を一切感じさせない彼女の声に少しばかりびっくりした。
朝食に遅れるわけにはいかないため急いで支度をする。壁にかけられていた自分の制服に身を包み、鏡の前で身なりの最終確認。
「寝癖なし、歯も磨いた。よし!行くか!」
これから始まる新生活に胸を躍らせながらも、レヴィは急いで食堂に向かった。しかし食堂にいたのはリリスだけであった。
「起きるのが遅いぞ全く。あと1時間は早く起きる様にしろ。今日は初日だから仕方ないが、次回からはもうこの時間に食事など残ってないからな!」
「大変申し訳ございませんでした」
「わかればよし!さてと今日の予定だが、取り敢えず本部の案内をしようと思ってる。ここは、とてつもなく広いからな、迷ったりしたら大変だぞ」
確かに、本部は幾ら何でも広すぎる気がした。アヴァロンのメンバーは24人、食堂など職員を合わせても50人いるかいないかなのに、この城の広さはエリュシオン城と同じくらいかそれ以上の大きさである。
「1日で案内できるかわからんが努力はしよう。それとその後なんだが、グリューネルト卿がお前と話がしたいと言っていた。」
「俺と話?一体なんだろう」
「おそらくお前が魔法をまともに使えない原因と、身体の基本スペックの低さの原因についてだろう。これからここで働くには、お前には元の力を取り戻してもらわねば」
元の力っていうのがよくわからなかった。なにせ生まれてこのかた、超初級の魔法しか使えたことがなかったのに、お前には実はとてつもない力があると言われても理解が追いつかない。
「元の力か」
「どうした?何か気になることでもあるのか?」
「いや、おそらく関係ないと思うんだけど。俺が最近よく見る夢とかって関係あるのかなって」
「夢?一体どんな夢なんだそれは」
レヴィはリリスに夢の内容細かく説明した。異質な一本の木や、その木に浮かぶ紋章について。説明が終わった頃にはリリスは驚きの表情を浮かべていた。
「お前、それはもしかして"時の歯車"じゃないのか?」
「"時の歯車"?」
聞いたことのない単語である。歯車というものは、時計台にもあるから見たことがあるが。
「魔力量が多い人間の中に稀に現れるものなんだが、その歯車が回っている間は魔力供給量が爆発的に上昇するが、その歯車が失われてしまうと、一切魔力供給はされなくなる。
幾ら何でも封印の副作用で多少の魔力も封印されているにしては、あまりにもおかしいと思っていたが、なるほど歯車が止まっているのなら合点が行く。
お前の魔力は、我々の封印では完全に封じることなどできないくらいだからな」
過大評価し過ぎでは?とも思ったが今はその歯車を動かす方法を知ることが重要である。
「どこに歯車はあるんだ?」
「すまない、それについては私にもわからない。ただ、グリューネルト卿ならばわかるかもしれない。その点についても今日聞いてみることにしよう。」
なるほど、やはりグリューネルトの部下からの信頼は凄まじいものだ。何があっても何とかしてくれる、そう思わせてくれる男、それがあの賢者グリューネルトなのだろう。
「かっこいいな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何も言ってないよ」
「そうか、では30分後に再び食堂に来てくれ。案内を始めよう」
「りょーかい」
そう言ってリリスと別れ、自室に戻る事にした。
20分後〜〜〜〜
「あれ?ここどこだ?」
いきなり迷子になった。
自室に戻ろうと来た道を歩いていたつもりだったんだが、どうにも部屋にたどり着かない。
「おっかしいな、来た道を辿ったつもりだったんだけど。って、もう10分しかないじゃないか。」
リリスとの約束の時間まで残り10分しかない。本来なら部屋に戻り、眠いので仮眠でも取ろうと思ったが。
「仕方ない、食堂に戻るか。ん?あれ?食堂ってどうやっていったっけ?」
迷子になった事から食堂の場所までもわからなくなってしまった。自室から食堂までの道のりは昨日散々リリスに教え込まれたので覚えていた、いや教え込まれたはずなのだが忘れてしまった為、本部の清掃員の人に会わなければたどり着けなかっただろう。
「まずいぞ。このままだと約束の時間に間に合わない。誰かいないかな....あっ。」
道を聞こうと人を探していた時。数メートル先にアヴァロンの制服を着た人影がみえる。
「あっ、あのー!すいません!食堂までの道のりを知りたいんですけど。」
「ほぇ?」
なんだが間抜けな声が聞こえた気がした。しかしよく見ると目の前にいるのは。
「幼女?」
「違うのです!これでも貴方より1つ年上なのです!」
目の前にいる幼女から驚きの事実を聞かされ、思わず「えっ?嘘。」っと言ってしまった。それも仕方ないだろう。何故ならこの幼女は、孤児院にいた自分より6歳下の女の子と同じくらいの身長で顔も幼い。
誰がどう見ても幼女ではないか。それに、昨日いた24人の団員の中に1人も幼女などいなかった。
「本当なのです!全く、新人のくせにいきなり失礼な事を言うのです!」
「え、でも。昨日貴方はいませんでしたよね?」
「いたのです。この姿で。」
幼女の姿がみるみる大きくなる。平たかった胸はたちまち膨らみ。身長もリリスと同じくらいまで伸びた。これでもかと言うくらいのグラマラスボディーに変化した。制服のサイズまで大きくなった事にふと気づく。
そう言えば、この姿は昨日24人に囲まれている時、俺の斜め左前にいた女性だった。
「これでわかったのですか?」
「あ、あぁわかったんだけど。正直な所どっちが本物の姿なんだ?」
「そ、それは」
そう言い目の前グラマラス女性がもじもじしてる。
「あっ、やっぱり」察しることができた。すると、声に出そうとは思っていなかったんだが。
「現実って、残酷だな」
と、口を滑らせてしまった。
「ムカーーなのです!もう許さないのです!地獄の底で後悔するのです!ファイアー...」
「やめろ!」
廊下の遥か先からよく知った声がする。リリスだった。だが、さっきまで何か様子がおかしい。鬼のような形相でこちらを睨みながら近づいてくる。
「時間になっても現れないと思ったら、こんなところで、暇を持て余してたのはなぁ!挙げ句の果てに、本部内で魔法を放とうとした馬鹿いたときたもんだ。覚悟はできてるんだろうなぁ?」
「す、すいませんでした!」
横にいたグラマラス女性が速攻でリリスに土下座をした。
「でも、いけないのはこの人なのです!。この人が馬鹿にするから!」
「そうなのか?レヴィ?」
鬼がこちらを向く。全身から冷や汗が出る中、全力で理由を説明した。
「いや、それは不可抗力なんです!。だって、目の前に見知らぬ幼女がいて、誰かと思ったらいきなりこんな姿になるし、どちらが本物なのか気になるじゃないですか!」
「ほう?それで?」
「それでって?」
「それで、お前は私との約束をすっぽかし、トラブルに巻き込まれていたのか。」
リリスの体からとんでもないオーラが溢れ出してくる。終わったな、と思った時であった。
「ったく朝っぱらからうるせーぞ。」
目の前の扉から上半身半裸の男が出てきた。分厚い胸板にスキンヘッド、まるで猛獣のような目つきをしたこの男を言い表すなら、そう。
「ご、ゴリラ」
またやってしまった。
「誰がゴリラだ!おいクソガキ、いい度胸してんじゃねぇか」
ゴリラがこちらに詰め寄ってくる。逃げ場のない状況に目を瞑るも、突然両サイドにいた女性陣が大笑いし始めた。
「あはっ、あはははははは!ご、ゴリラだって?あははははは!」
「あははははは!ゴリラ、ゴリラなのです!」
禁句を連呼する2人についにゴリラがキレた。
「いいだろう。そんなに早死にしたきゃあの世に....」
「やめたまえ。君の今の状況を見たら誰もがそう思いますよ。」
リリスがきた反対側から、あの秘書風の団員が近づいてきた。
「それに、お二人も笑いすぎです。幾ら何でも自生してください。」
「「ごめんなさい」」
声を合わせて謝る2人。そしていつの間にかグラマラス女性は幼女の姿に戻っている。
「すみませんね。いきなりこんな騒ぎに巻き込んでしまって」
「いやこいつがいけないんですよ!こいつが余計なこと言うから」
「黙りなさい、ルーグ。彼はまだ来て日が間もない。少しの無礼くらい許しなさい。」
「ういっす...」
あのゴリラが言いくるめられてしまった。
「申し遅れました。私は、No.2 ルーマス・アレスティンと申します。得意属性は闇。これからよろしくお願いしますね、レヴィ君」
一瞬時が止まった。なんと目の前に現れたのはアヴァロンのNo.2、"
名前は聞いた事があったが実物を見るのは初めてであった。それに、アレスティンと言う名。世界五大貴族のうちの一角、アレスティン家の名に自然に頭が下がる。
「れっ、レヴィ・エリュシオンです。こっ、こちらこそよろしくお願いします!」
「そんなに畏る事はありませんよ。本来なら頭を下げるのは私の方なのですから。」
そう笑顔で告げるルーマスに自然と気持ちが楽になった。
「さてと、私の方は挨拶が終わりました。あなた方2人も挨拶したらどうです?」
ルーマスは、目の前のゴリラと幼女に告げる。
「わかりましたよ!おい小僧。俺はNo.16、ルーグ・グレゴリアスだ。得意属性は水だあんまり舐めた口聞くなよ?小僧。」
妙に威圧されたがそれは仕方ない事だったので、返事をし頭を下げた。
「次は私の番なのです。私はNo.20、リンベル・カーン。得意属性は火なのです。次馬鹿にしたら丸焼きにするのです!。」
元気な声でとんでもない事を言う幼女にビビりながらも頭を下げる。
「もう挨拶は済んでるが一応私もしておこう。私の名は、リリス。リリス・クロムウェルだ。得意属性は水。よろしく頼むぞレヴィ。」
そう言いニッコリと笑うリリスにレヴィも笑みを返す。最初に話したと言うのもあるが、リリスが1番話しやすい。
「リリスさん、貴方は今日レヴィ君に本部を案内した後、グリューネルト卿の元に行くのですよね?よろしければ私も同席させていただいてもよろしいですか?彼には興味がある」
「もちろんです。ルーマス卿。案内が終わり次第また連絡させていただきます。」
「よろしくお願いしますね。それではレヴィ君、また。」
「はい!よろしくお願いします!」
挨拶を交わし、ルーマスは廊下の向こうへ歩いて行く。
「さてとそろそろ行くか。大分時間を削ってしまった。急いで回らねば日が暮れてしまう。グリューネルト郷との会談もあるしな。行くぞレヴィ。それじゃまたな、リンベル、ルーグ。」
「おう、次会った時はしっかり挨拶しろよ?」
「は、はい」
「そうなのです。次はないのですよ」
「わかったよ、リンベル"ちゃん"」
「んぁぁぁぁ!もう許さないのです!リリス姉さんがいなければ丸焼きなのです!」
「わかったよ、ごめんな」
ふざけながらもリンベルに謝り、その場所を後にした。
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