第4話『理不尽な運命』
気づけば周りの世界はアヴァロンの本部に戻っていた。だがそんな事を考える余裕は今のレヴィには無い。先程まで見ていた"真実"をまだ受け入れられていないのである。すぐ横に立っていたリリスに問う。
「あれは、本当に真実なのか?俺は親に捨てられてたんじゃなくて、事実は8年前のあの日、王都の南に位置するシアナ村の大虐殺の生き残りだと。俺の親は"骸"っていう連中に殺された。それが事実はなのか?」
「あぁ、そうだ。"骸"は世界各国の王族や貴族を中心に無差別殺人を繰り返すギルド。前々から目を光らせていたが、まさかあの村を襲うとは思わなかった。」
「奴らは父さんが、エリュシオンの初代国王だって言ってた。でもエリュシオンが建国されたのは150年も昔だ、到底理解ができない。
でも確かあんた、俺の真の名はレヴィ・グラムではなくレヴィ・エリュシオンって言ったよな。なぁ、俺は一体何なんだ。それに俺にかけられた呪い、それはなんなんだ。」
相手がアヴァロンのメンバーだろうが関係なかった。自分はどうしてこんな目にあったんのか、どうして自分の両親が殺されたのか、悔しさと悲しみから、どんどん言葉が出てくる。
「その問いに関して、儂から説明しよう」
24名の円の正面にいた顎髭を腰まで伸ばし白いローブに身につけた目を閉じたままの老人が答えた。レヴィはその老人が誰なのか直ぐに理解し、身を強張らせる。
賢者ワイズマングリューネルト。この世界でその名を知らないものなど、たかが知れている。アヴァロン最強、つまり世界最強の魔術師と謳われ、この世で最も長き時を生きる者。
「お主の父、大悪魔ゼルネスは魔法国家エリュシオン王国の初代国王である。そしてその妻、大天使ガヴロアは初代女王である。
お主がわからないのも無理ない。この2人は文献から一切の記録を消し、南にあるシアナ村に移住したのだから。それに年齢に関して言えば、あの者達は悪魔と天使なのだから人間より遥かに長生きだろう。」
ずっと気になっていた。記憶の中で、父が悪魔、母が天使と呼ばれていた事。もしそれご本当なら、俺は一体...。
「安心しろ、お主はまぎれもない人間だ。ただ、その血には、天使と悪魔の血が流れている。」
自分の心を読んでいるかの様な発言にびっくりしたが、賢者なのだからそのくらい容易いのだろうと思う事にした。
「お主の両親はお互い天界と魔界を追い出され、長い間人間の村に身を置いた。
だが、その時代は戦が絶える事なく続いていた時代。今自分達がいるこの村も、いつ戦火に巻き込まれるかわからない。そう考えた彼らは城を作り、巨大な壁を築く事にした。ありとあらゆる敵の進軍を防ぐために。それが今現在のエリュシオン王国じゃ。
そして、エリュシオンと言う名は彼らが人間を偽って暮らしていた時の名であり、彼らにとって特別な意味を持った名であった。どう言う意味だったのかは儂でもわからん。そして2人の間には、天使でも悪魔でもない、人間の子供が生まれた。それがお主じゃ」
何故グリューネルトがここまで両親の事情を知っているのか、色々な推測が脳裏をよぎる。
「父さんと母さんは、この国の初代国王と女王。その息子であるから俺の真名はレヴィ・エリュシオンってわけか。おかしな話だな。魔法適正の低さから8年間、理不尽な嫌がらせを受けていた俺が、この国を作った2人の息子だなんて。」
「お主の魔力が低いのには原因がある。それを取り除けば、儂を超えるほどの魔力を手に入れるじゃろう。」
「賢者を超えるね。だけど、俺は魔法適正がこの上なく低い。宝の持ち腐れになるだけだと思うけど。」
「それは、魔法属性が合ってないだけじゃ。その点はどうにでもなる」
現存する5属性全てに適正がないのにどうするんだと思ったが、今はそれより聞かなくてはならないことがある。
「あのロフォカレとか言う男が俺にかけた呪いは一体何なんだ?」
それは今1番気になっていた問題であった。呪いなんてものが自分にかかられているのを知って、正気でいられるような人間ではない。
「その事じゃが、その前にお主に問わねばならん事がある。」
何だと思ったが、目の前にいる賢者の表情がふっと、冷たいものに変わる。
「世界のために死んではもらえぬか?」
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何を言っているのかわからなかった。ただ、死ねと言われたのは直ぐに理解した。
「な、なに言ってるんだ。世界のために死ね?どういう事だ!」
「あの時お主にかけられた呪いは、魂融合の呪い。文字通りお主と奴の魂が合体したのだ。
この呪いは解呪方法が全くわかってない。ただ、融合した魂の片方の人間が死ねば、もう一方も死ぬと言うことだけ。つまりお主が死ぬば、あの男も死ぬ。そのまた逆も然り。
ロフォカレと言う男、奴は"骸"中でも特に危険な存在として警戒されている。悪夢の様な呪いをかけることからもだが、何より奴はお主の父同様、悪魔じゃ。それに、おそらく上級の悪魔であろう。人間が数人集まったところで勝ち目はない。
さらに悪魔には普通の物理攻撃は効かない。そのため今まで対処できなかったが、ようやく対処方法が見つかった、それがお主じゃ」
理解した。こいつらは元々俺を殺す気でここまで連れてきたのだと。
「そうか、それがあんたらの目的か..」
リリスが下を向き、唇を噛み締めている。そういえば彼女は8年前のあの日あの場にいた。今なら何故彼女が無能の俺に『力を貸してほしい』などと言ったのか理解できる気がする。
「どうじゃ、お主の答えを聞こう」
再び問われた。もう答えは決まっている。
「それが世界の為になるなら、俺は...」
『俺は命を捧げる』と言いかけたところで、ある言葉が蘇ってきた。
『どんなに苦しくても諦めないで、諦めたらそこで終わりよ。』
『貴方は強い子。だってお父さんの子なんだもの』
死ぬ間際に母が言った言葉が闇に落ちていく自分に手を差し伸べた。それはきめ細やかな白だった。暗い闇の中にいたからそのように見えたのかもしれない。1度は躊躇した。
だが記憶の中で見た両親の姿を思い出したら、自然と自分の手がその白い手に向かっていった。そして手と手が重なった瞬間、レヴィの心の闇が一気に真っ白に染まった。
(そうだ母さんは、俺に全てを託したんだ。どんなに苦しくても、俺に勇気を持たせてくれる言葉をくれた。父さんは命をかけて、あの狂人に向かっていった。どんな時も母さんと俺を守ってくれた。なら)
覚悟を決めた。確かに諦めた方が楽かもしれない。それでもう苦しむことがないのならそれが1番の選択なのかもしれない。
でも母さんと父さんの希望と無念自を果たす義務が自分にはある。例えそれが辛い道のりだろうとも。もう何もかも諦めるのはもうやめだ。
「俺はもう諦めない!ただひたすら前を向いて歩き続ける!例えその先に残酷な運命が待っていたとしても、そんな腐った運命俺がぶち壊す!
それが、母さんと父さんの子に生まれた俺の果たすべき義務だ。だからまだ死ねない。俺が、世界を変えてみせる!」
24名の団員が全員目を見開いた。予想外のことだったのだろう。しかし、
「世界を変える為に死ねない、か。いいじゃないか、その方が面白い」
ガイアスが不敵な笑みを浮かた。
「運命への叛逆、ですか。これはまた大きくでましたね。」
秘書風の団員が苦笑いを浮かべる。周りの団員を見渡した賢者はうなづいた。
「結論は出た」
グリューネルトは深呼吸をし、
「合格だレヴィ・エリュシオン!」
合格。つまり俺はこの人達に試されていたのか。まさかこんな展開になるとは思いもしかったので、正直驚いた。そして自然と涙がこぼれ落ちる。今度は嬉し涙だとすぐにわかった。
「汝が決意、今我らに届いた!今この時をもってレヴィ・エリュシオンを25番目の団員として迎え入れる!異議のある者は!」
「「「いません!」」」
「ならばよい。リリス、アレを持ってこい」
「はっ!」
グリューネルトの命令と共にリリスが宝石が敷き詰められた箱を持ってくる。
「ありがとう。そして、よく言った。やはり君は私が思った通りの人間だ!これからもよろしく頼む」
そう言って手渡された箱の中には、あのアヴァロンの制服が入っていた。胸には憧れていたあのエムブレムが刻まれている。
「こちらこそよろしくお願いします。リリスさん」
「リリスで構わない。私もレヴィと呼ばせてもらう」
2人の顔に自然と笑顔が浮かぶ。
(遂に始まるのか、俺の戦いが。辛い戦いになるだろう。でも後悔はしていないしこれからもしない。俺を愛してくれた家族がいた、俺に希望託した家族がいた。それで充分だ。だから見ててくれ父さん、母さん。俺、2人の分まで頑張るから)
その思いを胸に抱きつつ、制服に身を包んだ。
「アヴァロン団員No.25、レヴィ・エリュシオン」
「うむ、精進するがよい。共に世界を変えようぞ」
レヴィを祝福するように、外では白い鳥達が一斉に白の周りを飛び始めた。
止まっていた運命の針が、再び時を刻み始めた。
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