第5話 オリジナル・プリペイドカード

その日はドライブスルーのレジを担当していた。


ある男性中年客と中年女性の乗った車が窓口に現れ、支払いの為にこのチェーン店のプリペイドカードを差し出した。


現金をジャラジャラ持ち歩く必要もないし、毎回数ドルのコーヒー支出を管理するのに便利なのか、このプリペイド・カードを使う人は多い。


季節によって色んな柄のプリペイドカードが売り出されるし、毎年デザインも変わる。自分のお気に入りのデザインでオリジナルのカードを作ることもできるらしい。



その男性が差し出したのは、金髪でビキニの人が横たわっているデザインだった。


セクシャル・ハラスメントに厳しいカナダでこういうデザインのカードを使うとは、なかなか勇気があるなと思いつつ、ギョッとしたものの、何事もなかったかのようにこのプリペイド・カードをスワイプした。


支払いが済んだので、そのカードを男性客に戻す。


「びっくりした?」その客は言った。


続けて、


「これ、ビキニ柄のTシャツ着てる妻なんだよ。このプリペイド・カード数年前の誕生日プレゼントに貰ってね。ちょっと写真が擦れてきてるけどチャージして使い続けてるんだ」


よく見ると確かに写真の女性は裸にビキニではなく、ビキニがプリントされたデカい肌色のTシャツを着て横たわっている。


助手席の女性が私に手を振った。


「ハーイ」



プリペイド・カードの写真の女性だった。


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ダブル・ダブル エドモントン・クルーザー @EdmontonCruiser

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