第3話 アメリカ人
ある日、声の大きいお客さんがやって来た。
ボウルに入ったチリとハム・アンド・スイスのサンドイッチと、ラージのワン・クリーム、ワン・シュガーのコーヒーを頼んだ。
トゥー・ゴーではなくて、ステイ、の注文である。
USミリタリーの退役軍人会の野球帽を被っている。
お会計でデビットカードで支払うというので、カードリーダーを指さすと、リーダーの右端に付いているスワイプ用の溝にカードを入れて素早くそれを引き抜いた。
珍しい。
カナダのクレジットカードやデビットカードであればチップが入っているのでカード・リーダーの下部にあるスロットにカードを差し込んで使う。今時スワイプすることはない。
もしくは、機械に差し込みもせず、カードリーダーにかざせば暗証番号を打ち込まずとも支払いが完了する。所謂、”タップ”する、というやつだ。
「アメリカから来たんですね」私はそう尋ねた。
「ミズーリ―から長距離トラックでチキンを運んできたんだよ」彼は大きな声で答えた。
それから週に一回か二週に一回ほどこのお客さんは店に来た。
荷物がの積み下ろしが終わるのを待っているのか、それとも約束の時間より早くついてしまったのか、何時もコーヒーだけではなく食事を頼み、店の無料WiFiを使ってノートパソコンで何かを読んでいた。
しばらくして、元々弱かったカナダドルがアメリカドルに対して一段と弱くなった。
このトラックの運転手さんを店で見かけることは無くなった。
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