第2話 老夫婦
ある日の昼下がり、年老いた夫婦がコーヒー店にやって来た。
二人はスモールのコーヒー二つとオールドファッション・プレーンのドーナツを二つ頼むと、「コーヒーは、入れたてのを下さい」と付け加えた。
このコーヒーチェーンは、低価格帯ながら、常にフレッシュなコーヒーを提供するというポリシーがある。だから20分経ったコーヒーは捨てることになっている。
「うちのコーヒーは全部フレッシュですよ。一番古くても20分しか経ってませんよ」
そう説明するものの、老紳士は「今まさに入れたてのがいいんです」と譲らない。
古い、とは言っても全て落としてから5分だったり10分だったりするコーヒーがウォーマーの上には3つ4つある。
ウォーマーはお客さんの目の前にあるので、直ぐにサーブできるコーヒーがたくさんあることは見えているし、この客の入りだとまだ新しいポットを作る必要は本来ないのだが。
仕方がないので、ウォーマーの下部にあるバスケットに新しくコーヒー豆をセットし、ガラスのポットを下に置いてドリップを始める。
「今ドリップしてますので少々お待ちくださいね」
そう言って、老夫婦にコーヒーメーカーの脇で待つよう促し、次のお客さんの注文を取る。
ミディアムのダブル・ダブル。
先ほどセットしたコーヒーのドリップがまだ終わってないので、次の客のオーダーを先に作ってしまう事にする。
ウォーマーに乗ったガラスのコーヒー・ポットを取り、”古い”コーヒーで次の客のダブル・ダブルを作る。
”古い”コーヒーポットを手に取る私を見て、老婦人が「あっ」と声を上げた。
”フレッシュなコーヒーで”とお願いしたのに、この店員はそれを忘れて自分達に古いコーヒーを使おうとしている、おそらく彼女はそう思ったのだろう。
それに気が付いた老紳士がなだめる様に彼女に言った、
「ハニー、あのコーヒーは自分たちのじゃないから大丈夫だよ」
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