ダブル・ダブル
エドモントン・クルーザー
第1話 氷なしアイスコーヒー
何時もドライブスルーに来る常連さんが居ました。
そうですね、仮にミスター・グラントとしましょうか。
ダッシュボードが埃だらけのステーション・ワゴンに載って、何時も大きめのチェックのネルシャツの下からパーカーのフードを出すスタイル-ここらへんでコンストラクション・ワーカーが良くやっている組み合わせ-を着て、毎日、ドライブスルーにやってきました。
注文はいつも一緒。
エクストララージとラージのダブル・ダブル、アイス・キャップ・ラージ、ラージのアイスコーヒー・氷なし、クロワッサンが売り切れてないならそれをあるだけ。
他のお客さんがドライブスルーの行列の長さや、店員の注文間違いや、商品を切らしているのにカリカリする中、注文を間違えても怒る事なく、何時もHow are you?を自分から聞いてくれる温和なお客さんでした。
毎日来てくれるのでもちろん店員は皆ミスター・グラントの事を知っています。
ヘッドセットから彼の声が聞こえると、彼が注文する前にこちらから確認するのが常でした。
「ハーイ、ミスターグラント。エクストララージとラージのダブル・ダブル、アイスキャップ・ラージ、アイスコーヒー・ラージ・ウィズアウト・アイスね。クロワッサン今日は3つあるけどどうします?」
その日私はドライブ・スルーではなく、店内のカウンターを担当していました。
丁度お昼時でカウンターは長蛇の列。二つオープンしているレジのどちらもフル回転でした。
ランナーが居なかったので一人で注文を取り、飲み物を作り、ドーナツを用意していると、列の中にミスター・グラントを見つけました。何か言いたそうにこっちを見ています。
何時もドライブ・スルーなのに今日は珍しいなあと思いながら軽く会釈をして、ミスター・グラントに一瞬でも早くサービスするために目の前のお客さんの注文を一つ一つ終わらせていきました。
お昼のラッシュが終わって、ちょっと一息ついた時です。
スーパーバイザーがこう言いました。
「そういえば、ミスター・グラント昨日亡くなったって。心臓発作だったって」
私は言いました。
「え?でもミスター・グラント、今日お店に居ましたよ。カウンターの列に並んでた。いつもドライブスルーなのにおかしいなあと思ったんです」
そして、私は、ミスター・グラントが私のカウンターの列に並んでいたのにも関わらず、彼にサーブしなかったことを思い出しました。
しばらく経って、ドライブスルーでたまに似た注文を聞きました。
「ラージのダブル・ダブル、アイスキャップ・ラージ、アイスコーヒーの氷なし」
受取窓口に現れるのは、古ぼけたハッチバックに乗った、頭にバンダナを巻いた女性でした。
R.I.P、ミスター・グラント。
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