第2章
「いらっしゃいませまお客様」
まるで女性の声のような合成音が店内に鳴り響く。それが、1と0で構成された情報とは思えない、自然な肉声の空気をまとっていた。
店内に入った男は、その合成音を気に留めず、雑誌を陳列している棚へ向かった。マスクと帽子を着装し、まさにこれから強盗をしようかという出で立ちであった。
男は雑誌を前にし、ただ立ち尽くした。そこから先に断崖絶壁があるかのように、緊張した面持ちで、周囲にも気を止めず呼気も荒く。
「あの、お客様。ご気分はいかがですか」
どこからともなく合成音が鳴り響く。音声の指向性は男へ向いていた。他の客たちには殆ど届いていない。
「もし、ご気分が優れないようでしたら、近くにある病院へ連絡しますか?」
「いや、必要ない」
男は即答した。
「かしこまりました。」
合成音は男の返答に傅いた。
男の呼吸が次第に落ち着いていく。視線は下から次第に上へ向いていった。上着のポケットに入れたままの手に力が入る。
店内には客が二人いた。一人は男性客で今夜のつまみを選択中で、もうひとりは女性客で菓子を陳列した棚を見回していた。
男は上着のポケットから手を拔こうとした、その瞬間警告音が店内に鳴り響いた。
「緊急事態です。緊急事態です。ただいま、店内は危険な状況にあります。お客様におかれましては、身を伏せその場から離れないようお願い致します。緊急事態です。…」
オートマトンの祈り @svafnir
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