第三幕 クリームパンのクリームは卵、牛乳、粉、砂糖とかでできている
第三幕
あれから一年経った。
この世界にも大分順応出来たし
長期の仕事で就いたパン屋の仕事も順調だ。
もう、いち住民としての体をなしていると思う。
しかし一向に呼ばれない。
つらい。
こう、パンを作ってる時にも世界は危険になってるんだろう?ドライイーストどこだっけ。
・・・正直なところ痛いのは嫌だし。こう言うので良いんだ。
冒険を忘れ、このままパン道を極めるのも良いかな。そんな事も思った。
幸いなことに、この世界は先駆者(異世界転移者)達の努力のおかげで元いた世界に近い食材などが創られていた。生活に不十分はない。
気掛かりなのは前の世界の家賃とかだろうか・・・
「アマルさん、おはよう!今日も買いに来たよ!」
ドアが開くとともにカランカランとベルが鳴る。入店の合図。
元気な少女の声がしんとしていた店内に活気を呼び戻す。
常連のミリアちゃん(原住民)だ。
「おはよう、今日もクリームパン?」
「うん、お願い!あー、あとこのメロンパンも!」
彼女はこの国の鍛冶屋で働いている。主に店番ではあるが男臭い鍛冶屋のイメージに咲く一輪の花のごとく。
利用者の中ではアイドル的存在の看板娘だ。
「アマルさんのカスタードクリームってなんでそんなに美味しいんですか?」
「え?」
「ほかのお店で売ってるクリームパンより全然美味しいんですよね〜何か工夫してたりするんですか?」
「うーん、甘味でいうと多分ヒナタソウの粉末を入れてるからかな。色々すると甘い粉末が出来るんだよ」
「へぇー、ヒナタソウでこんなに甘くなるんだ!」
「他にも色々やってるけどね」
取り留めのない会話を交わしつつ、会計を済ませた。
ミリアちゃんはまた明日ねと出勤して行った。
また、店が静かになった。
元々昼しか人気の無い店なのだ。
店長は経営をみつつもこの店を自分に託し、新しく饂飩屋を始めた。
実質、一年目にして店長になっている。
本来、こうやって店を持ちたいとか。パン屋を開きたいとか。そんな事考えた事無かったけど。
実際そうなってみると案外悪いもんじゃ無い、
あっち(元いた世界)よりこっちが良いな。という感覚になる。
ある種元いた世界に対するホームシックにならない善良な転移者なのかもしれない。
そう考えていると、急にヨシダさん達に会いたくなって来た。
初めての自分に良くしてくれたお礼とこのパンを食べてもらいたい。
ただどこにいるか分からないし、いつ会えるかも分からない。
会えたらそうしようと考えつつ、開かないドアを見つめるだけの1日が終わった。
「だったら!クリームパンの専門店にしちゃうのはどうですか!」
翌日、いつもの様にパンを買いに来たミリアちゃんは思いついたように提案して来た。
「他のパン作る材料が勿体無いじゃないですか!
例えばこのジャム入りのパンとか。あまり手に取られないのに作るのは意味がないですよ!」
「うーん。確かにそうだね。。」
「あ、あとですね。私お店で軽く聞いただけなんですが、新しく戦士補助金制度が出来たらしいですよ」
「戦士補助金制度」
「戦士の人しか受けれないらしいけど、説明会があるからアマルさん聞いてみたらどうですか?」
お店が落ち着いた夕方。
説明会を受けに保護施設に向かった。
戦士補助金制度。
戦士活動を活発化させるため新設されたらしい。
活動報告書を提出するとそれに見合った報酬金が支給される。
「報告書のフォーマットはございません。例えば、日記を付けられてそれを定期的に提出頂いても構いませんよ」
職員が大衆の前で説明を行う。
日記を書くだけでお金が手に入る。なんて時代だ!
ひと通り聞いたあと、途中で新品のノートを買って帰路に着いた。
「さて、我もニッキといふものを つけてみるナリ」
テーブルに向かうなり何か昔の人っぽい真似をしながらページをめくった。
パリパリと糊が伸びる音がする。ノートなんていつ振りだろう。。
真っ白な紙、これからの始まりを感じさせられる。
さっそく1ページ目に今日の日記を書き記した。
ーーー1日目
パン屋を営んでいるが、最適化を図るにあたりクリームパン専門店としての営業を決意する。
こんなので良いのかな。固い気がするけど。
まぁ、魔物倒したりじゃ無いから配当も少ないだろうしこんなので良いか。
さ、今日は寝よう。
明日からどうするか考えつつ
いつもの眠りについた。
第三幕 おわり
俺が選ぶ卵は常に双子になる法則 @buncha
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