第二幕 あしたのぼく

第二幕



「なんか、申し訳ないな」



長く続いたメンバーの沈黙を打ち破るかのようにヨシダは言った。



「あいつは死んでったんだ。今悲しんでも仕方がない。こうやって戦っている以上よくある事だ」



確かに、誰かを殺して旅をする以上自分達にも死は常にあるだろう。

今日ここに来た自分にとってはその勇者とは話したことがなく。失礼ながらどう悲しんだらいいのか分からなかった。

ただただ今のこの空気が終われば良いのにと下を向き経過を待っていた。



「君、さっきは回復してくれてありがとう」


「えっ?あ、、ありがとうございます。・・・あれで、治ったんですか」


「ああ、十分にな!初めてにしてはすごいよ!」



「・・・あの、、なんで僕が、その、いつものヒーラーじゃないって分かったんですか?しかもそれを知ってたようで」


「私も一緒だからだよ」


「???」




「私も急にこの世界に来たんだ。君は、いつの時代から来たんだい?いや、未来かも知れないから聞かないでおこう。」




名前的に自分以外にも同じようにこの世界に突然来た人が居るんだろうと思っていたがまさにそうだった。

ヨシダはその後もこの異世界の仕組みについて語ってくれた。



冒険をするパーティーは基本的にこの世界の原住民が就くことができる「勇者」を中心に、特技(スキル)を使うことの出来る異世界から来た「戦士」達3人の4人で構成される。魔法使いさんも異世界者なのか。



そして凄いのは、この異世界から来る戦士は肉体有る限り不死身であるという事。


ただ、不死身と言っても体だけで本人は死ぬ。残った身体へ新たに異世界者が転生して来ると言う仕組み。とてつもない仕様だ。

だから自分は急にこの世界に飛ばされた挙句、戦闘中のパーティーにアサイン(?)されたのか。




続く話を聞いてると、ここは結構面白い世界観だった。



一国で統治されているこの世界は元々平和だったらしい。

と言っても統治前は戦争が幾度も起きておりそれを統治してから数千年平和だったそうだ。

※年という概念がこの世界にもあるのかと驚きつつも質問で話を遮らずに聞く事に専念した。


しかし数百年前、突如魔物が現れ始めた。

原因は定かでは無いが吟遊詩人が唄い伝えるには統治国の中枢が行った悪魔召喚がこの事態を巻き起こしたらしい。

統治国は壊滅、そこから世界中が魔物に侵されるまで時間はかからなかった。



これを受け、魔物討伐と原因の解明を目的とした組織が発足。沢山の賛同者が集まり今や大きな国を形成している。




「その国ではひとつ面白い制度がある。

 討伐希望者は原住民であれば誰でも国王から勇者の位を授かって討伐隊を結成することができる」



勇者制度。なんてさっき勝手につけた名前だけど、勇者になった者は国王から特別な戦士を2〜3人手配してくれるそうだ。



「なんか、とんでもない世界なんですね・・」




素直な感想が出た。そもそも異世界の人を呼び出して戦わせる時点で馬鹿げている。

ただ、異世界者が使用出来る特技が無いと太刀打ち出来ないらしい。

勇者って言うけどただの監視者なんじゃ無いのか・・・?



そう考えてると、魔法使いさんは"んーー"と背伸びをし


「帰りますよ」


そう告げた。



勇者死す。原住民である以上不死身では無い。

なんか、みんな慣れている感じだった。






「あの、すみません」


帰り支度をする際やってみたい事がありヨシダに質問を投げてみた。



「勇者さん死にましたけど、これ、僕が蘇生魔法を唱えると生き返るんですか?」



回復が出来るんだから蘇生も出来ると思う。

ヨシダも出来ないと即答せず少し間をおいて答えた




「出来るよ。ただ、人を生き返らせるくらいのスキルだから多分君は死ぬよ」




何も言えなかった。





-----




瞬間移動する魔法はやはり凄い!

一瞬にして討伐隊が結成される国まで着いた!

ふわっと浮いたと思ったら弧を描くようにギュンッ!と飛んだ。

男性的にはちょっとキュンとしてしまう要素はあるが、こんな画期的な魔法は是非自分も使いたいものだ!



さて、旅を終えた我々はヨシダに連れられ勇者死亡の報告を済ませた。これが一連の流れだと言う。流れってどんだけ死に目に会って来たんだ・・・




「みなさんは、これからどうするんですか?」


仕組みは理解したものの、実際とるべき行動が分からない。

ここで放り出されては大変なので何をするか質問を投げ「いいですね、僕もご一緒させてください」と別れる相手の裾を掴む作戦に出た。



「私たちは次の勇者に就く事になってるよ。君は、、多分まだだろうなー」

「・・・」


「あー、戦士と言っても優遇はされないよ。この世界には異世界から来た人が多い。配属されるまでは寝床決めてバイトするしかないな」

「・・・・・・」




とてもつらい。





「この道の先に未配属の戦士を保護する施設があるからそこに行くと良いよ。

 まぁ勇者なんて1月に10人くらい出てくるからすぐだよ」


魔法使いさんがサラッと補足するがそんなに勇者って居るのか・・・



「じゃあな、君も気をつけて冒険するんだよ。この世界では我々はスキルを創造する事ができる。だからといって自分の力を過信し過ぎるな」




つらい・・・





と感じていても仕方がない。

彼女達と別れた後、言われた通り保護施設に向かう事にした。

方角しか教えてもらっていないが目先に大きく佇む教会のような所であろう。


そこまでは中世ファンタジー感のある店々が連なっている。繁華街かな?この世界の食文化を把握しつつ足を進めた。



通りはとても美味しそうな匂いで満たされている。

ある店には赤い暖簾が下がっており、そこには"ラーメン"との文字。長蛇の列を作っていた。


「ラーメン。」



異世界に似つかわしい食べ物。

万世界共通なのだろうか・・・

その他にも様々な店を見つつ保護施設についた所で施設員に声を掛けられた。



「こんにちは、貴方は新規の方でしょうか?」

「え? そ、そうです。旅の途中の討伐隊に割り込んだ形で、、ここは初めてです・・」



「かしこまりました。では戦士登録をさせて頂きます。

 えーと、ジョブ登録するのですが。・・失礼ながら風態から回復や補助をされる方の様にお見受けしました。賢者や司祭と言ったジョブに致しますか?」



「ジョブ・・!

 ・・・えーと、、僧侶ってありますか?それでお願いします」



「御座います。ただ僧侶はほとんど利用されてない名称ですがよろしいですか?

 と言いますのも勇者に配属する際多少はネームバリューも見られまして。どうしても君主などある程度箔がついたものが選ばれやすいのですが」

「自分にそんな名前語れる自信がまだ無いので・・・僧侶でお願いします」


「承りました」



「すみません。。」



「いえいえ、まぁ、"店長"を所望する方もいらっしゃいます。そこらへんのお店はそういう人達が開かれたのですよ」



通りで・・・





受けた質問に返す形で戦士の登録が進んでいった。



「では、最後にお名前をお願いします」


「えっ

 ・・・じゃあ、、アマルでお願いします」



ヨシダという名前にしたのが何となくわかった。

急に聞かれると戸惑って当たり障りの無い苗字を付けてしまう。

ゲームであれば気軽にいつものH.Nの様な名前を使用するが、これは自分自身の名前だ。。いつもの名前は少々恥ずかしい。。

でもそのまま苗字の「田丸」では質素だ。この中世的な世界では浮きすぎてしまう。


苗字をいじってアマルにした。




「アマルさん。はい、かしこまりました」

「これで登録は完了です。アマルさん、ようこそ討伐国『エーシェ・エルフェカト』へ」




ガラガラガラ・・・と救済所の門が開かれた。

同時にぶわっと出て来る中の熱気。煙。アルコールの匂い。食べ物の匂い。喧騒。


ここは酒場か?



「アマルさん、ここでは様々な戦士が勇者誕生までの間の仕事を求めて集まって来ます。そこの掲示板では短期的な仕事、あそこのカウンターに居る係からは長期的な仕事を受けることが可能です。」



ここはハローワークか?





「短期は緊急性があり依頼主にとっては失敗しない手練れの人を望んでの発注が主になります。今のアマルさんでは経験も無いので難しいかもしれません。

 オススメは長期的な仕事です。遠方案件が多いのですがたまに初心者歓迎という事で依頼主の元での教育期間も考慮された職人的な仕事もあります。こちらで生活しつつ世界に慣れてはいかがでしょうか」



「・・・」

「あの。すみません」




「何でしょうか」




「前会った人に勇者の誕生は良くあるからすぐ配属されると聞いたのですが、長期の仕事はすぐ呼ばれたりして無理なんじゃないですか?」




「それに関してはご安心ください。今やこの国の50%は我々の様な戦士の方です」

「昔はそれこそ順番に呼ばれてたのですが、最近は経験を重視する様になりまして私もそうですがなかなか呼ばれないかと思います」




ヨシダさん達、相当やり手だったのか。



「こう言った仕事で着々と経験を積まれる事をオススメします」




そう言ってまた新しく来た戦士に駆け寄って行った。

さあ、どうする。。




とりあえず、長期の依頼を見て決めることにした。





第二幕 おわり





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