俺が選ぶ卵は常に双子になる法則
@buncha
第一幕 はじまりとゆうしゃの死
主人公が異世界に転生するお話は多々読んできた。
いや読んでない。友達から聞いて来た。
元々ノベルなんて読む趣味は無いしアニメもよく見るほうじゃ無い。ゲームは好きだけど。
転生方法について、自分が知る限りのよくあるケースは交通事故。
後は、ゲームの世界から戻れなくなった(?)とか。転生と言って良いのか?
いずれにしても、読み手に近い被験体(現実世界の人物)が異世界に行き現実世界の物や知恵で異世界の住人を驚かせるという流れや
舞台となる異世界の世界観を踏まえた読み手なりの妄想など
ある種の天地創造的な快感を得る事が異世界転生ものの醍醐味なんだろうと感じる。
と、朝の通勤で混む電車の中。
いつもの様に世の中の流行りを自分なりに分析するのであったが今日は違った。
どうやら自分も異世界に転生したようだ。
===
どのタイミングで転生したのか定かではない。 交通事故に遭った訳じゃ無いし。。
多分、自分が降りる駅のひとつ前の駅で自分以外の乗客みんなが降車した時だと思う。あの流れは絶対怪しい。
何はともあれ、電車を降りると広がっていたのは
黒い空とそれ混じる赤い色炎。
パチパチと音をたてて燃える家屋。
焦げ臭い匂い。
人の悲鳴。
火の熱さを肌に感じる。さっきまで冷房の効いた車内に居たからとてつもなく暑い。汗が頭から滲み出る。
レンガとも言えない石やむき出しの木で作られた家々。ゲームで言う"街"でなく"村"みたいな所か?
雰囲気的に、小さな村が何かに襲われているんだろう。それが人なのか魔物的な生物なのかは瓦礫と赤い炎に遮られ確認できなかった。
「まだ9時か」
気づくと無意識にスマホを取り出し時間を確認していた。
自分でもよく分からなかったが現実かどうか確認したかったんだと思う。
圏外ではあるがスマホから見えるデジタルな数字が今の自分を安心させてくれる。
いつもの会社に行くよりは良かったかもしれない。
そう思いつつ電車の方を振り返るとそこには薄暗い緑の平原。点々と生えている木。
そして太い木の棒で殴りかかってくる二足歩行狼が居た。
===
----!
----しろ!
-------ろっ!
こんな感じで呼びかけられたんだと思う。
実際の所意識が無い状態でそう言う呼びかけは聞こえないと思う。
あれからどれほど経ったかは分からないが
気がつくとよくある魔法使いな服装の女性が自分を起こそうと体を揺さぶっていた。
「しっかりして!!大丈夫?」
「えっ・・・あ、ありがとうございます」
切迫した顔を近づけられたじろいでしまった。その流れで胸の大きさをチェック。
男の本能なのか自分の癖なのか、初めて女性と会う時は顔の次に胸を確認するはずだ。
うん、この人は胸デカい。
「あんたはこのパーティの唯一のヒーラーなんだ。攻撃されないよう下がってなきゃ!」
どうやら異世界でも自分がいた世界と同じ言語が話せるようだ。本当に異世界か?
ただ、彼女のそのセリフで今置かれている状況を察した。
狼に殴られてまた転生したのかどうかは分からないがどうやらパーティを組んでいて自分は回復担当らしい。
と言うことは冒険で寄った村が襲われたって流れか。ゲームで良くある展開だ。
考えを巡らせている自分をよそに彼女は続けた。
「あっちの瓦礫にヨシダが怪我を負って休んでるから回復してあげて!私はまだ残ってる魔物を倒さなきゃならないから行くよ!」
「ヨシダ」
思わず復唱してしまった。
木々が燃える音。瓦礫が崩れる音。人が叫ぶ音。
二足歩行する狼。魔法使いな服装の女の人。ヨシダ。
ひとつだけ、どう考えても異世界には無い要素だ。
自分以外にも転生者が居るのか。
「何ぼさっとしてるの!早く行ってあげて!!」
「あっ、、!あぁっ!はいっ!」
指を差された方に向かうと確かに人がいた。女性だ。
これもうビキニなんじゃじゃないかと言うほど露出度の高い鎧、側には木製の盾と剣。
誰がどうみても女戦士だ。
「よっ・・ヨシダさんですか?」
見た感じ外傷はないが満身創痍のようで苦悶の顔を浮かべこちらを見上げていた。
「あぁ・・・すまない・・手当をして欲しい」
痛みに耐えているのか"はぁはぁ"と言う大きな呼吸混じりで自分に話しかけて来る。
周りの暑さもあり汗がダラダラと流れ、体はまるでオイルを塗ったかの様にテカっている。艶かしい。
しかし・・・手当と言ってもどうすれば良いのだろうか。
出勤前にそれらしいものを持ち出してたか確認しようと思ったが、服装はこの時代に合わせた服になっていた。
法衣と言えば良いのか。本当にゲームでよく見る癒し手のナリ。オレンジ色の全身タイツは身につけていないようだ。
であれば、薬草とかそういったものがあるはずだ。身につけていたカバンを開いてみるが草ひとつ入ってない!なんなんだよ!
戸惑っている自分を見て察したのかヨシダが話しかけてきた。
「大丈夫だお前はスキルが使える。」
「えっ?」
スキルと言う直球な単語で戸惑ったが、確かに魔法使いの様な人が居ると言うことは魔法を唱えるスキルがあると考えておかしくない。
と言うことは自分は回復が使えるのか。
「おとぎ話でもなんでもいい。対象に対して印象に残ってる回復呪文を想像して」
「対象に対して印象に残ってる回復呪文。」
何もかも初めてで置かれている状況も理解出来ていないが、今はこの世界の仕組みに慣れるしかない。
大体こうだろうと両手を前に突き出し、オーソドックスな3文字の回復呪文を想像した。
手と手の間に緑色の光が集まる。周りの火の熱さとは違う、柔らかい暖かさが手のひらを積むとともにその光はヨシダの身体に入って行った。
「上等だ、ありがとう」
これで良かったのだろうか。
どうやら魔法は成功したらしく、ヨシダはグッと剣の鞘を支えにして立ち上がった。自分の身長よりちょっと高い。
こんなに簡単に回復出来るのか。特に何か数値的なものが下がった訳でもない。若干疲れた感じはあるが。
「さて、残った魔物を倒してこなくては。
君はそこで休んでいると良い。スキルを使うと疲れるんだ」
走り去るヨシダの黒い髪が風になびく。
瓦礫の中に映るその姿は、崩れた世界に対する光。勝利へ導く天使のようだ。
突然迷い込んだこの異世界。
初めてのこの戦場は、戦士一団を率いる勇者の戦死で、幕を閉じた。
第一幕。終わり。
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