それから

 二人の馬鹿が卒業して一年と半年が経った。

 展開された映像に映し出されたのは、どこまでも抜けるような青空と枯れ果てた荒野、それに舞い上がる砂塵だった。

『よしよし、これでオッケーかなおーい写ってるー?』

 使い魔の目に向かってソルファは手を振る。相変わらずの温い笑顔だった。

『って、これじゃあ確かめようが無いじゃないか。まあいいや写ってるだろう。写ってることにしよう確認して駄目だったら取り直せば良いんだし』

 というか、そもそもこれが入っている段階で駄目だろうとは思うが、適当な彼のことだこんなことは些末に思ってそのまま入れたんだろう。

『マリア先生、元気? 僕達は元気だよ。こないだ、なんかやりたいようにやったら逃げるような生活が続いて昨日まで大変だったんだー。まあ昨日ちょっと一段落ついて……あー、ちょっとこっちおいでー』

『なになにー?』

 とことこと、小さい女の子が画面の端から入って来てソルファの元にやってくる。ソルファが使い魔を指さし女の子をこっちに向かせる。

 そこで盛大にコーヒーを吹いた。

 映っていたのは、先日誘拐されて、つい昨日保護された、国王の娘であるアゲハ姫だった。

『紹介するね。アゲハちゃん。僕らはこの娘をなんとなく通りすがりで助けた訳です』

『ぶい』

 アゲハは、快活な笑みを浮かべて両手にピースサインをつくる

 アゲハの表情を見るに誘拐ではなく、保護をしたのだろう。そして昨日まで戦って逃げて、決着がある程度ついたのだろう。だから呑気にこんな事も出来る。

『えーっと、何を話そうとしてたんだっけ。なんか昨日までの事が大変すぎていろいろ忘れちゃった』

『アゲハお家帰りたくないなぁ。ずっとソルファと一緒にいたい』

『困ったなぁ。君を家に帰すのが僕達の新しい目的な訳で、このまま一緒にいると、僕達が誘拐犯扱いだからなぁ』

 ぐだった。

 何も考えて無いからソルファは以前通りにぐだってた。

 思い出して、とりあえず録画し始めたは良いけど、何言おうかとか何も考えてないことは間違い無かった。

『おら、何やってんだお前ら。休憩そろそろ終わるぞ』

『あー、ジーン。今ねマリア先生に映像送ろうと思ってるんだけど、ジーンも何か言ってく?』

 ジーンはにらむように、使い魔を見て指さしてソルファを向く。

『映ってんの?』

『うん』

 ソルファがそう言うとジーンは振り返って、使い魔の目を見つめたようだった。

『先生。見ての通り俺たちは元気だ。姫様助けたり、またミハエルの馬鹿が何かやらかそうとすんの止めたり毎日忙しい。死ぬ時はあっけないかも知れないが、なんとかやれてる。そっちから連絡するのは難しいって思うが、いつかまた元気な顔を見られる時が来ると良いなって思うよ』

『まったねー』

 そう言って後ろでソルファが笑顔で手を振る。

 ジーンはがっくりと脱力して、それからソルファへと突っかかっていく。映像はそこで全く別の方向を向いて止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卒業のために必要だったこと @abutenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ