存在意義
「悪質ギルド……ねえ」
フェンリルの里を壊し、リコルノ、キュリア、るんるんを危険に晒す、そんなギルド。
今までそこまで人に敵意を向けたことのない俺であったが、今までの出来事、話から許せるものではない組織へと、俺の中でなりつつあった。
というか、許せるわけがない。
だが、仮のギルド名もなく、情報が何もないことから、今の俺にやれることも殆どない。
「人でなかったら何してもいいとでも思ってんのか、命をなんだと思ってんだ。同じ心を持ってるってのに……」
俺が殺生を許すのは、心の持ってない虫の殺生。これは自分が小学生くらいのときに虫とか潰してたから他人のこと言えないからである。
あとは食に関しての殺生。これは生きるために必要なことだから、感謝するしかない。
絶対に許されないのが金銭のための殺生だ。
食が絡むならいい、けどアクセサリーとか道具のためだけに殺す。これだけは絶対に許せない。
しかも、この世界に関しちゃ、同じ言葉を喋られる、意思疎通のできる輩も御構い無しだからな……。
人以外は全員下で見てる、要するに差別。
ドラゴンもユニコーンもフェンリルも全員平等、いや普通に考えりゃ人より上の存在だろうけど。
だけどまあ、俺が目指すのは全種族平等な社会、それを邪魔する組織なんざこの世にいらねーんだよ。
「うん、とても素晴らしい考えだと思うよ。それが上手く叶えばの話だけど」
「勝手に出てくんなよ神さま」
「いやでもねぇ、君の考えは正しいけど正しくない。最後までやり遂げて初めて成功と言える話だね」
「何が言いたい」
「途中で放棄、あるいは途中で失敗したときの話さ。その悪質ギルドというのはこの世界で上位種を牽制するだけの力を持っている。ここが崩れるとまずパワーバランスが上位種側に傾くんだよ。ここで人が上位種に押しつぶされるバッドエンドだってある。君一人で上位種全体を牽制できるとでも思っているのかい?」
「できる、するしかないだろ。いきなり和解なんて無理だろうから、お互い敵視しないように俺が間を取り持つしかないって」
「甘い。甘すぎる。たしかに僕は君に興味を持ったから君のパートナーとなった。だけど、その考えはあまりに無謀、上位種が束になれば神をも凌駕する力を持つんだ。君一人でなんとかできるわけがないだろう。それと、君は勘違いしているけど、悪質ギルドを全て潰すことができたとして、それを依頼していた人たちは消えないわけだ。根本的な解決にはならないんだよ」
諭すように神様は続けると、「全てを守れる善人になど、一人の人間如きがなれるわけがない。それは、神でさえむずかしいのだから」と言い残した。
真夜中のリビングで一人、「クソが」と言い放ち、近くにあったソファに腰掛ける。近くでキュリアが俺の様子を伺っているように見えたが、今の状態でキュリアの相手ができるとは思えない。
暫く気づいていないフリを続けた。
たしかに、俺一人でなんとかできる問題ではない。
全種族仲良しなど、夢物語であることには違いない。キュリアの夢であるドラゴンと人間の共存だって……。
国がその犯罪組織を殆ど放置しているのも、国自体には大きな脅威がなく、人間と上位種のパワーバランスが崩れることを恐れているからなのか……?
指名手配にしているし、考えすぎだとは思うが。
俺に力と信用さえあれば、上位種全てを守ることだってできたのかもしれない。
「いや、俺が国をつくって上位種たちにとって安全を保証できる居場所をつくってあげられればいいんじゃないか……?」
それを実現させるためには、今の俺じゃまだ実力不足だし、俺は人間。キュリアの兄とは面識があるが、大体の上位種は人間に敵意をもってる。
上手くいく可能性は0に等しいし、俺が途中で死ぬ可能性は100に近い。
死にたくはないけど、可能性が0じゃないならやってみる価値はある。
国をつくっても全てを守れるわけじゃないし、そもそも国を作るなんて子供みたいなことを言ってんじゃねえってなるけど。俺の目の届く範囲は安心安全でいてほしいし、上位種にとっての居場所ってやつをつくろうと奮闘するくらいならみんな許してくれるだろ。
「そうと決まれば、明日からるんるん軍団の情報網やらやんやら使って捜索するところから始めるかのお。キューちゃんも早く寝ないと大きくなれないぞ」
「ぬぇ!?」
リビングを出て、自室に戻る間に、隠れているキュリアの頭をぽんぽんと手で触る。ぴくりと紅色のアホ毛が反応し、青ざめた表情でキュリアが俺の方を見てきたため「嘘じゃないぞー?」とあくどい表情で追撃した。
「小さいのやだぁーっ!」
走って逃げていくキュリアを見送りながら自室へと戻り、俺は倒れるようにベッドの上に飛び乗った。
女性恐怖症男子のハーレムテイム ちきん @chicken
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