王子が美しい娘に求婚し、娘が「はい」と答えると、二人は新たな王ときさきとなった。

 全ての花が一斉に咲き、花の妖精たちが、結婚祝いの贈り物を持ってくる。

 中でも一番素晴らしいのは、白い一組の翼だ。それは后の背中にぴったりで、今まで歩くことしかできなかった后は、花から花へと軽やかに飛べるようになった。

 その翼が、はえの羽であること。ここに羽があるということは、奪われた一匹の蝿がいるはずだということを王は知っていたが、何も言わずに微笑んでいた。

 結婚祝いの歌を依頼されたつばめが、二人の頭の上でキーヴィ、キーヴィ、と歌う。遠い国から、王の花嫁となる娘を連れてきてくれた大きな鳥には、感謝している。燕が后を見つめる瞳の潤み、歌声のかすかな揺らぎにも気がついていたが、王は微笑んで耳を傾けていた。

 花の妖精の一人が言った。

「おやゆび姫なんて名前は変よ」

「そうよそうよ」

 他の妖精からも、同意の声が上がる。

「これからは、マイアと呼びましょう」

「それがいいわ」

 王は無言でうなずき、許可を示す。

 そして、おやゆび姫と呼ばれていた娘は、この世界から消えた。


End.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おやゆび姫の不在 卯月 @auduki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ