第3話異世界
「ここはどこんなんだろうか」
洞窟の崩壊から金髪の少女を担いで脱出した涼夜はあたりを見舞わたして言った。
そこは森の中だった。森に生い茂っているのは紫色の木々だ。
今、涼夜がいる場所は少し丘になっていて紫の森が奥まで見渡せる。
森のはずれには街のようなものが見える。
涼夜の知識の中にはこんなはマップは存在していない。
全く未知の場所だ。
それにさっきのはなんだってんだ……
涼夜は先程の洞窟で起こった出来事を思い起こす。
オルファンでは召喚したモンスターはそのマップのサイズに合わせて縮小されて現れる。だというのにあそこで炎竜王は設定通りの50メートル級のサイズで現れてお陰で洞窟が崩壊してしまった。
つーかそもそもなんでマップが壊れるんだよ……。
「システムカード発動」
システムカードからマップ画面を呼び出し場所を確認しようとしたのだが、
「出てこない……」
発動をコールしてもなにも起きない。システムカードが発動できないということはつまりログアウトが出来ないということだ。
涼夜の動悸が激しくなる。
なんでゲームの中で心臓の鼓動を感じられるんだ。
なぜ風に吹かれて涼しいと感じるんだ。
なぜ生い茂る木々の匂いが分かるんだ。
馬鹿な。ありえない。
理性は否定しても感覚が肯定する。
「うぐ」
涼夜の混乱が頂点に達して絶叫が口から漏れ出しそうになったその時だ。
「あ、あの」
背後から声をかけられて振り返る。
崩れる洞窟から救い出す時に気絶してしまっていた少女が気を取り直したのだ。
「君が僕のことを助けてくれたんだよね。助かったのさ」
傷だらけの少女の姿を見て、涼夜はかろうじて理性を取りも出す。
この傷手当しないとな……
もう涼夜は少女のことをNPCなどと思ってはいないかった。
涼夜はアイテムカード【治癒の秘薬】を呼び出して発動させる。
赤い雫が少女に降り注ぎみるみる内に少女の傷が癒えていいく。
「うわわわ! すごいのさ! すごいのさ! 傷が治ったのさ! でもお腹は減ってるのさ!」
歓声を上げて跳ねる少女。
「あとはその服だけど、さすがにそれをどうにかするカードは持っていないな」
「大丈夫なのさ! この服は再生布で縫われてるからほっとけば直るのさ! 一生着られるお買い得品なのさ! で、でも良かったの? さっきのアイテムカードすごく高そうだったのさ」
「まあ……気にすんな」
オルファンでは回復アイテムは貴重品でショップでは売っていない。
それでもまたダンジョンに潜れば手に入る。
だけどもしかしたらもう入手は難しくなるかもしれないか……だったらもう少し考えて使わないとな。
……何考えてんだよ、まるでそんな、もう戻れないみたいな。
素でそんなことを考えている自分に気がついて凄まじい絶望感に襲われそうになる。
「ど、どうしたのさ、なんで泣いてるのさ」
「へ?」
気づかぬ内に涼夜の目には涙が溜まっていた。
身一つで未知の場所に放り出されたかも知れないという恐怖心と孤独感。
しかし、十六歳という涼夜の年齢はそれを人前でさらけ出すことを拒んだ。
相手が同年代の少女、それも頭に美がつくとなおさらだ。
「な、なんでもねえよ」
震えた声で少女から背を向ける。
「うお!」
すると少女が涼夜を引き寄せた。
少女はまるで母親が子供にするように涼夜を抱きしめたのだ。
「なんだか分かんないけど怯えた顔をしてたのさ。昔、怖いことがあった時によく母さんがこうやってくれてたのさ」
暖かな感触、それはゲームの中では絶対に味合うことが出来ないものだ。
少しの間、身を委ねたがすぐにハッとして振りほどいた。
「ば、バカ! 何してんだよ」
同年代の少女にまるで子供のようにあやされたという恥ずかしさで顔が赤くなる。
危ねえ、危ねえ。一瞬、号泣しかけたぞ。
もしもあのまま、子供のように泣きじゃくってこの少女に「うわ、キモ……」などと思われようものらな首を吊って死ぬしかない。
思春期真っ盛りの涼夜にとっては、異性の前で醜態を晒さないということは他のどんな問題よりも優先されるべきことなのである。
……まあ、孤独感は和らいだんかな。
強がりのスイッチが入った涼夜は、少なくともこの少女の前でパニックになることはないだろう。
「あのさ! あのさ! 君は本当に英雄様なの?」
「英雄? なんじゃそりゃ?」
「あの洞窟に現れた時、言ってたのさ。自分は英雄だって」
「ああ、あれね。適当に言っただけだから忘れてくれ」
「なんだそうなのか……」
少女はなぜかしょぼーんっと落ち込んだ。
どいう仕組みなのか頭のくせ毛も項垂れている。
「でもすっごく強かったのさ! なんせ支配級……」
そこで少女はそこで何かに気がついて顔が青ざめていく。
「もしてあなたは【七聖杯】のお一人じゃないんですか」
「はあ?」
よく分からない単語が飛び出してきたので首をかしげる。
そして少し考えた後に「実はそうなんだ」っと冗談で言った。
その言葉に少女は即座に平伏して本当に「へへー」と言って頭を下げる。
「す、すまん。嘘だ」
ただの冗談でまさかここまで過剰な反応をされるとは思わなかった。
この少女は人懐っこい子犬のような雰囲気があって、どうもからかってみたくなるのだ。
もっともこの冗談も平静を保とうとする強がりの一つだということに、涼夜自身は気がついていない。
「言っていい冗談と悪い冗談があるのさ!」
少女はなにやらプンスカ怒り始めた。
「なんだよ、そんな大層なもんなのかその【七聖杯】ってのはさ」
「何を言ってんのさ! 七聖杯っといったら【神約教会】における聖人達。全てのカード使いの頂点に立つ七人のことなのさ!」
支配級モンスター。それはレベル300以上の最上級モンスターを指す。召喚できるモンスターのレベルはプレイヤーのレベルによって決まる。つまりその七人もカンスト級ということになる。
――問題はそいつらがその上のカードを使えるかどうかだな。
涼夜のレベルはカンストの300。
それは間違いない。なぜだか分からないが自身の力を感覚で推し量ることができるのだ。
「君は一体何者なのさ」
「俺は……」
言葉に詰まった。どう説明したらいいものか。
いやそもそも説明してもいいのか? 頭がおかしいと思われるかもしれない。
「実は名前以外、なんも覚えていないんだ。気が付いたらあそこにいてさ……」
さすがに苦しいか。
「それは大変なのさ!」
少女はあっさりと信じてしまった。
疑われるのは覚悟で言ったので拍子抜けしてしまう。
「とりあえず自己紹介をするのさ! ボクの名前はルシル。歳は十七歳。しがないカード使いなのさ。」
「俺の名前は空色涼夜……って俺より一つ年上かよ!」
「ふふん。お姉ちゃんってよんでもいいのさ!」
確かに少女、ルシルの発育はいい。
だが抜けた喋り方をするのでどうも年上には見えない。
「特技はくせ毛をちょっと動かせるのさ!」
そういって頭のくせ毛をぴょこぴょこ動かし始めた。
「おお……すげえ? けどなんの意味が……」
「バカにしちゃけないのさ! ボクはこの芸で一夜の宿と晩ご飯を手に入れたことあるのさ!」
そういってルシルはえっへんと胸を張る。
「へえ……一夜の宿って家出でもしてんのか?」
「ボクに家はないのさ10歳のときからずっと一人で生きてるのさ。ボクは何にも囚われなで、気楽なのさ」
現在強がりの最中の涼夜にはそれが強がりであるということがわかった。
そして無神経に口走ってしまった気まずさで顔をかいた。
気まずさをごまかすように涼夜の腹がなった。
ああ、腹まで減っちまったか……。
意を決してアイテムカード【姿鏡】を発動させる。
これはキャラメイクの際に使用するカードで目の前に鏡を出現させる。
現れた鏡。そこに映っていたのは涼夜だった。
デュエルワールドの内の身長180cmの清かイケメンではなく、現実世界の中肉中背の空色涼夜の姿だった。
やっぱりそんな気はしてたんだ。
なぜなら、涼夜の服装はデュエルワールドにログインした際の制服姿のままだったからだ。
クソっと涼夜は舌打ちをうつ。
異世界転移だってのかよ!? んなアホな!
だが間違いなくこの世界は現実なのだ。
あれ……待てよ……これって赤也に聞いた話と似ているような。
でもあいつが言ってたのは確かホライゾンカードだったよな。
俺をこの世界に導いたのはアビスカードとかいうカードだ。
「そうだ! アビスカード!」
その存在に思い至り涼夜はアビスカードを呼び出す。
黒色のそのカードを手に取ると涼夜は発動をコールする。
しかしアビスカードの枠が赤く光る。
これはこのカードの発動条件を満たしていないことを表している。
「駄目かあ……」
涼夜はがっくりとうなだれる。
どうしてこんなことに……。
こんなことなら綾香と一緒に買物に言ってりゃよかった……。
それにやっぱなんか気になるんだよな、赤也が言ってたホライゾンカードってカードのこと。
うなだれた涼夜は今日の昼と放課後のことを思い起こす。
異世界/仮想/現実/境界超えのカード使い。〰剣も呪文も召喚も全てカードで・VRMMOからの異世界転移 @ZAKOBA
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