第6話
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自我と忘却の合間。ふわふわと揺れ動く真っ白な空間。私の髪はいつの間にか長い。姉妹が分離されるのを何よりも怖がった昔と同じ、腰あたりの長さまで。
「私、お母さんが死んだときに、あぁ死にたくないなぁって初めて思った。でも、どうしたって回避できないものじゃない? 私がなくなることからは逃げられないもの。だから少しでも私を感じてもらえる範囲を増やすために、朝奈がわたしと同じでなきゃいけないと思ったの。でも、あなたに自意識なんてものが芽生えたら、それは人になっちゃうよね。それじゃあ意味がないの。あなたは私よ、あなたじゃない、って言い続けられればよかったのに。
でも、もうこういう風に言わなきゃいけないってことは、どうしようもない段階まで登っちゃったってことかな」
「意味が、わからないです。夕」
「本当は、気づいているんでしょ?」
「そうかもね」
「やっぱり?」
「いるかの声を聴いたから」
「じゃあ、言ってごらんなさい?」
「私は朝奈であって、夕じゃない」
彼女が描いた呪縛のような構造から逃げられない限り、私には私というものがあるのかが怪しい。どこまでも一緒で、さっきセンちゃんが言ったように「渡瀬」として呼称される以上、それ以上の分類はいらなかった。
けれど。
「センちゃんは、誰のために泣いてるの?」
寝そべるのが容易であるような長椅子のはしに一人座って、絶望にまみれて泣きじゃくる彼女の祈りは。
「朝奈ぁ……」
それは確かに私だけのものだった。誰にも否定されることのない、私が私であることを願った言葉。
いるかの音波は人間の可聴域を越えている、初めから聴こえるはずもなかったんだ。
それでもいるかは鳴き続ける、聴いてくれる私が現れるまで。
いるかの声を聴け 一条めぐる @Ichijo_meguru
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