不死身くんとヤンデレちゃん

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不死身くんとヤンデレちゃん

 僕の彼女はヤンデレだ。 

 人によっては、そいつはヤンデレじゃないとか、お前はヤンデレを分かっていないとか、それはメンヘラといって違う属性です、なんて言うかもしれない。 

 でも僕にはその辺りの区別はつかないので、ヤンデレと名義させてもらう。 


 彼女は僕がクラスの女の子と話していると、すごく睨んでくる。睨んでくるだけならまだ普通だが、放課後になると怒って刺してくる。カッターナイフで。 

 グサグサと何度も腹を刺してくる。時には怒り任せに、時には音ゲーをするようにリズミカルに、僕の身体を刺してくる。 

 僕は不死身だけど、痛覚はある。だからあんまり刺さないでほしい。


「ねえ、なんで君は他の女の子と話すの? 君は私とだけ話せばいいのに、どうして他の子と喋るの?」

「生きていくには、他の人とのコミュニケーションは必須だからだよ」 


 不死身の僕が、生きる、というはちょっとおかしいかもしれないけど。


「他人なんて関係ないよ。君は私とだけ話してよ、お願いだよ。私だけを見てよ」

「あーはいはい。分かった分かった」 


 僕は適当にあしらう。


「そうやって、私に冷たくして。どうせ私のこと面倒くさいって思っているんでしょ。どうせ私のこと本当は愛してないんでしょ。同情とか憐れみや施しの精神で、私と付き合っている――」 


 彼女が最後まで言い終わる前に、僕は彼女の口を手で塞いだ。 

 もごもごを彼女は少し暴れるが、しばらくしたのか落ち着いたらしく、静かになった。


「いいか? 確かにお前は面倒くさい女だ。僕がほんのちょっと他の女の子と話しただけで、ナイフで刺すわ。毎日会っているのにLINEを百件以上送ってくるわ。こんな束縛の強い女、僕は他に知らない」 


 いつも暗い顔をしている彼女の顔色が、一層ダークになる。


「でもな。僕はお前を愛している。事故で死んだ僕を、悪魔と契約してまで蘇らせてくれたお前を感謝している。同情なんかで付き合ってなんかいない。もしそんな気持ちだったら、とっくの昔に別れているよ」

「……」

「良いか? 他の事なら何を言ったって構わない。怒って何度刺したって、僕は気にしない。でも、『愛していない』なんて絶対言うな。次に言ったら、今度は僕が悪魔と契約して、この不死身の体を消滅させてもらうからな。分かったか?」 


 コクコクと頷く彼女。 

 僕は手を離し、は彼女の口を解放した。


「うん。じゃあ一緒に帰ろうか」 


 僕は彼女の手を取り、歩みだす。 こんなヤンデレな彼女を許す僕の頭も、結構イッちゃっているな。 

 まあでも絶対に別れないけどね。神に、いや悪魔に誓って。

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