第2話

オルテミア国


やはりこの大陸にも金属の部隊は向かってきていた。

金属軍隊。それは、完全な鋼鉄で作られた鋼の軍隊。

これまで数多くの国々がその鋼の軍隊と戦い続けてきたが、防戦一方であった。

鋼の部隊が登場したのは今から100年以上前、当時の大帝国であったリステア帝国は完全に滅ぼされた。リステア最後の皇帝ジズ7世は鋼の軍隊に対して、新兵器を導入し善戦したが、30年前にリステアは滅び去っている。リステアが崩壊して、鋼の軍隊に占領された大陸を人々は放棄。それからのち周辺の小大陸へと逃げ込んでいた。

鋼の軍隊から大陸を取り戻すことが人々にとっての大いなる悲願でもあった。

しかし、それも遥かな昔のことで、今となっては人々はめったに昔話を思い出すことは無い。

滅亡したリステア帝国の科学技術は現代以上であったとされているし、有史以来、初めて、この世界を統べていたのである。その大帝国が滅びたため、鋼の軍隊と戦うことのできる国は存在しないとされていた。鋼の軍船が出港準備に入ったとき、人々は絶望していた。

しかしながら、鋼の軍隊であっても打ち破らねばならぬ。幸いにして、周辺の国々とも平和状態は続いているし、精強な軍隊はそろっている。

当時30ある小大陸のうち最も強大な力を持っていたのは、オルテミア国であり、その国王は、10年前に即位してのち周辺の小国に対しても支配力を発揮していた。

王の名は、アグニと言った。王はどこからやってきたのか、詳細は不明であるが。極めて軍事的な才能を持っていた。アグニ王は、大陸へ偵察部隊を派遣することとした。


危険度の極めて高い任務にアグニ王臣下の精鋭10名が招聘された。

帆船に搭載された、10名が大陸に潜入調査を実施する。


精鋭部隊が見たのは、金色だった。あたりは一面、金色だった。金色のビル、金と銀。全ての高層ビルはそうだった。尖った形のビルもあったが、これは明らかに我々の国よりは、50年以上は進んでいるのではないか。相当発展しているように感じる。

潜入を開始する。情報見つけ次第逐一報告する。そして誰かが殺害された場合それを合図に一気に引き上げる。または、30分経過した時点で撤退する。

時間は限られる。それほど長い間いるわけにはいかない。時間が過ぎれば一気に対比する必要がある。どこから敵がやってくるかわからない。想像以上に文明は進歩している。ところがどういう訳か、人の姿は見えない。やはり、鋼の軍隊は何者なのか、分からない。ビルの中に侵入する。しかし中には何もないただの空間が広がっている、ガラガラである。

何もない。ただの建物である。

こういうのはどこかで見たことがある。そうか、これは張りぼてなのだ。

実際は、ここに居住施設はないのかもしれない。

おとりのビルである。

15分、真っ暗な世界である。どこに何があるのか、明かりは少ない。

どうやら、100年前からそれほど変化がないような気もする。地上は手つかずの状態である。

地下?こうなれば、地下にいるのではないか、地下に彼らは居住しているのではないか?

時間より早く退避命令が出た。

各位海まで撤退するよう指示がでる。

海?どれほどの距離があるのか。10名の精鋭が戻ることは無かった。


結論としては、わかったことは、彼らは我々と異なる居住施設にいること。それだけであり、殆ど有益な情報はなかった。

10名の精鋭部隊を送ったところで有意義な結果が何一つ得ることが出来なかった


10人の精鋭部隊の死は、真っ先にアグニ王に伝えられた。

王は、黙って報告を聞いていた。

王は、兵隊に命じて海岸線上に防壁を築き、食料を備蓄させた。その報告は村にも伝わってきた。村人の多くが帝国の王に従い、退避を開始する。海岸線から山地への移住が推奨された。王は炎という意味を持っていた。古い神の名前、世界を統べた神の名前、アグニは祈祷師たちからそう名付けられた。もともとの名前がなんであったか、それを話すことはできない。二度とその名前を言ってはならないと、きつく命じられている。しかしそれならばより強く、その名前を思い出すのであった。

ただ、彼の兄だけが、その名前で王を呼んだ。兄は、王位継承争いから真っ先に抜け出した。早い段階で、祈祷師になることで、王族の血みどろの争いから抜け出したのであった。


アグニ王は父が死んで7日の内に、7人の兄弟をすべて、殺した。8日目に、王位を継承した。兄だけが祈祷師となっていたため、殺さなくてよかった。王は兄が好きだった。兄もそれを知っていて、弟に王位を譲ったのである。

歴戦の戦士とはいっても、今回は一筋縄で戦える敵ではない。科学技術的には、リステア帝国との間に50年の開きがあった。リステア帝国の皇帝が空飛ぶ乗り物に乗って、島々を回っていた。その時、我々が馬車に乗っていたのだから、リステア帝国が滅んだ後、約100名の家臣たちがアグニ王のもとに亡命をしてきた。彼らが来たことで、アグニ王の科学技術は少しだけ進んだが、まだリステア帝国にも全く及ばない。

そのリステア帝国を滅ぼした、金属の軍隊に対してどう戦うべきか。

アグニ王は全国の祈祷師を呼び集めた。

祈祷師はオルテミア国において、極めて重要な役割である。彼らは政治権力から離れてはいるものの、大きな影響力を占めており、国民も祈祷師に対しては異論を述べることは少ない。祈祷師は、オルテミア国を建国した、当時から現代にいたるまで、王家とのつながりが深く、初代皇帝は、祈祷師であったとされている。

全国から祈祷師が集められて、皇帝の名のもとに3つのことが伝達された

①近い将来金属の軍隊が上陸する可能性が高いため、各地区祈祷師のうち1名は海岸線の近くに居住すること。もう1名は山間部にて待機すること。

②金属の軍隊についての情報を収集したものは即時王家に伝えること。貢献に応じた法相を約束する。

③10歳以下の祈祷師候補生の内、成績が特に優秀なものは、別の大陸に国費にて避難させる。本土が壊滅した場合も徹底抗戦をすること。


この通知に対して、祈祷師側も開戦が近いことを悟ったようだ。

アグニ王は、2回目の偵察部隊の派遣を決意した。それは、偵察とは名ばかりで、実際は強襲部隊だった。アグニ王は1万の兵を派遣し、先制攻撃を試みたのであった。

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宇宙の果て @orutemia

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