宇宙の果て

@orutemia

第1話

地球から飛び出した人類は宇宙の様々な生命体と遭遇した。そしてぐんぐんと進んだ。つかれたら休みながら時々口論や内紛を起こしながらもぐんぐんと進んだ。色とりどりの生命体と混ざり合い、時には、ぶつかり合い、灰色になりながらも先へ進んだ。それは産まれた河に還るニジマスのよう。


そうして宇宙の「果て」に到達したのは今から3000年も前のこと。「どすん」とぶつかって、もうこれ以上は進めないことを知った。

当時の朝刊には「宇宙の果て、あった」という大きな見出しと、残念がる「知識人たち」のコメントが続いていた。彼らは永遠と信じていた、宇宙に限界があることをしった。


しかし今から1000年前、宇宙の壁の一部が剥がれ落ちた。衝撃的な事件だった。その日、人々は「ぽかん」としていた。

僅か、27時間で宇宙の規模は2倍に拡大した。それと当時に異なる2つの宇宙の間で大きな戦争が起きた。戦争は長い間続いて、30年の後に講話が結ばれた。長い戦いだった。


そして、100年前宇宙の壁の管理する方法を見つけた人類は、宇宙壁管理局を設立。様々な利害関係を調整しより高度な発展のために、自由自在に宇宙の壁を開いたり閉じたりするようになった。僕はどの宇宙の壁をどのくらい空けるべきか。コンピュータを使って計算している。シュミレーションを繰り返すこと。これが僕の仕事である。


ちょうどそのころ、第8宇宙と第7宇宙の連結が噂されていた。それはうわさでしかない。どの宇宙と宇宙を接続するかは秘密裏に行われる。

マスコミは色々な噂を流しているが、それはほとんどの場合何の根拠もない、絵空事である。

第8宇宙と第7宇宙の連結については、コンピュータ上では実行すべきという試算が出ている。これで、101回目。99対2。実行する方が、良い。

連合政府からは、第8宇宙と第7宇宙の緊張が高まっているこの時期にゲートを開くべきではないとの声明を発表しているが、研究者たちにはその言葉は無意味である。連合政府であってもゲートを開けるかどうかについての決定権は有していない。我々は連合政府から、「成果を出すように」委託されている。しかし「どのように成果を出すか」は全く指示を受けていない。むしろ特定の国の利害が含まれないようにその部分については、一切の指示を受けることができないのである。


政治的権力から独立している。そしてあらゆる意見を無視して良い。

どんな権力者であってもゲート管理機構に対して意見を述べることはできない。それは、一部の人々に左右されてはならないからである。00人の研究職員が存在する。この300人で、膨大なシュミレーションを実施し、もっとも効果的にゲートの開け閉めを行う。


ゲートを開けるためには強力な電磁波を発生させて、人為的にゲートに穴をあけることが必要になる。これが開発されたのは今から100年前のことである。技術的には単純だった。ある周波数に合わせて、電磁波を合わせれば、壁が崩壊していく。宇宙空間の壁がぽろぽろと落ちていく。


宇宙はその生まれた順序で、大体の文化レベル、科学レベルの差が生まれる。またその宇宙の指導者の指導力によっても発展度合いが異なる。最近の学説では、宇宙の指導者は既に死に絶えたのだと言われている。宇宙の指導者は死に絶えてこの宇宙は次第に収縮していくという学説が流行っていた。


研究員のうち約3分の1はゲートの正しい開通により、社会貢献を実現したという思いをもっている。これは、貢献派と呼ばれている。もっともゲートの開通に興味がある者たちである。しかしながら、その本心はわかりかねる。


そして、もうひとつは、研究派である。彼らは自らがより深い知識を求めることに興味がある。つまりゲートの原理や、ゲートの向こう側の先進技術に興味があり、あまり、ゲートの活用によって社会を良くしたいということには熱心ではない。かれらはゲートを純粋に研究したいだけの考えである。

そしてそれ以外が無関心派である。かれらは元々ゲートを開通することにはそれほど興味はない。ただここに生まれていい暮らしがしたいから、この職を選んだだけのものである。


僕は19歳の誕生日にゲート管理局の候補生となった。

そして、そのころ僕の兄は、研究派の中心的な人物として既に頭角をあらわしていた。兄は、その時31歳だった。

兄と僕は12歳も歳が離れていた。兄は、私と比べれば若いころから天才として評価されていた。そして17歳でゲート管理局の職員になり、それから5年後には、正規の管理研究員に登用された。


このころのゲート管理の基本はコンピュータを利用した計算であった。

計算の為に小型の宇宙がいくつも作られた。この小型の宇宙は、ゼロ宇宙と言われた。これは生命が存在しないという意味のゼロである。

この小型宇宙は現在の宇宙を小型化したもので、ここに様々な要因を与え、その変化を観察するために作られた。このゼロ宇宙はひとつ開発するのに星ひとつ分くらいのお金を使う本当ならば、星をひとつ構成できるくらいの物質を投下して作り出すのである。

そのため大量増産はできず、現在のところでも、ゼロ宇宙は、20余りに過ぎない。

このうち兄は、F宇宙、J宇宙という二つの宇宙を与えられており、兄の偉大さを示す例でもある。兄はこのゼロ宇宙開発時の中心的なメンバーでもあった。


兄と僕、そして多数のアンドロイド達に囲まれて僕は育った。それまで父と母と呼んでいた人が実はただのロボットだったのだと気づいたのは、僕が10歳の時だった。その時僕は、それは僕くらいの年ごろの子供たちの例にもれず、落ち込んだ。その時からか、兄は品番に僕に時間を割いてくれるようなったような気がする。たったひとりの肉親である兄が僕を思ってくれることは次第に兄への憧れにつながっていった。

知的好奇心は尽きることは無い。特に第3宇宙についての疑問は我々研究者にとっては非常に大きな問題であった。総論から言えば、第3宇宙に対しては、無関係を継続するというのが基本的な姿勢だった。

第3宇宙は全く未知の宇宙である。そして、ジャバラの人々の奇想天外な神話や信仰を考えれば考えるほど、理解を超越していると感じるのである。ジャバラは5000年ほど前にすでにその文明の大部分が消滅している。今日、第3宇宙がどうだったのかということは分からない。

第3宇宙は、我々の宇宙に隣接する、4つの宇宙のうち最も歴史の古い宇宙である。

第3宇宙、第5宇宙、第7宇宙、第8宇宙。

第5宇宙については、かなりの繁栄をしていたのだけれどその宇宙の中心的な生命体はすでに別の宇宙に移動してしまい、文明レベルとしては、それほど我々の宇宙とは変わらない。

第4宇宙については、今から100億年以上前に滅びたことがわかっている。そこにはもはや何もない。

第7宇宙は、まだ小さな宇宙であり、ゲート操作の技術すらない。我々の宇宙と比べれば3000年ほどの乖離があるだろう。

そして第8宇宙については、さらに小さく、まだ、初期の生物しか存在せず、星の数もまだ少ない。

こうなれば、研究者の興味は元々進歩した世界。第3宇宙へ向かうことになる。しかしそれは、同時に大きな危険もはらんでいた。もっとも強固なゲートを開けることは、侵略行為ととられる可能性もある。また、それが第3宇宙にとって道徳的にどういう意味なのかわからない。

もしかするとすでに文明レベルは第5宇宙のように衰退しているのかもしれない。第5宇宙は、一時はかなり反映したらしいが多くの高い文明者たちが別の宇宙に移動してしまったため急速に進歩が遅れ、退化していった。


「第3宇宙の連結については、現状非常に大きな危険がある。もしかすると我々の宇宙そのものが奪われる可能性もある」というのが貢献派の主な主張であり、これは伝統的な考え方である。これに対し、第3宇宙との交流を促進し一気に、文明に進化もたらそうという建前のもとに、実際は自らの知的好奇心に突き動かされているのが研究派である。


ゲートの付近の惑星には別宇宙を先祖に持つものもいる。特にジャバラと呼ばれる惑星は、第3宇宙からの影響を多分に受けている。第3宇宙は、もともと肉体というものを持たない種族であり、我々で言うところの視覚や触感というものが存在しない。彼らが我々の第6宇宙に到着し、先住民族と同化したことでジャバラは今日においても極めて特異な種族である。ジャバラ種族は、肉体を持たないため、どこにいるのか、発見することすら容易ではない。しかし高度な知性は有している。その存在自体が公にはされておらず、一部の連合政府の幹部のみがそれを把握している。


研究派についてはもちろん批判も多い。彼らは貢献派の人間にとっては、自らの知的好奇心を満たすために、ゲートの管理という大きな仕事を利用しているという論理である。

貢献派と研究派の対立は大きな溝を生み出していた。


兄は、研究派の主力人物の一人だったが、それほど貢献派と対立することもなく、仕事が終わると真っ先に家に帰り、僕との時間を大切にしてくれた。両親がアンドロイドだということに気が付いて、そして二度と永久のこの空間の外へ出ることができないと宣告されたとき、そして、ここには、たった300人の人間と、無数のアンドロイドしかいないということを知ったとき。そのすべての時に兄は僕との時間を作ってくれた。


この世界にいるのはすべて男だ。女は存在しない。結婚とか家族というものは存在しない。兄と僕は同じ遺伝子から生まれて同じ家に住むことになった。どの遺伝子から生まれたかで、我々は家族がうまれる。兄と僕は同じ遺伝子を持つ。名もなき遺伝子である。


食料はすべて外の世界から運搬される。それをアンドロイドは器用に分解し食事をつくる。その他すべての衣食住を行う。我々にとって最大の娯楽は、一つは、ゲートの管理という仕事を通じて自らの権力を誇ること、あるいはそれをもって自らの偉大さを世界に示すこと。そしてもうひとつは有り余る予算を使い、真理を探究すること。それ以外にはほとんど大きな喜びはない。残念ながら我々に与えられているのはその程度の喜びである。

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