武将歌仙伝

兵藤晴佳

第1話 無責任この上ない前説

 あらかじめ断っておくが、これは奥美濃の伝説を基にした、全く架空の物語である。

 長良川を国道156号線(人呼んでルートイチコロ……縁起でもない)に沿ってさかのぼっていくと、夏は山々の鮮やかな緑の中に、冬は凍てつく白い空と斑雪を分ける稜線の間に、端正な姿の天守閣が見えてくる。

 これが、積翠城と呼ばれる郡上八幡城である。

 昭和の初めに建てられたものなので、史跡としてはあまり自慢にもならないと言えばそうだ。それでも、山城やまじろとしては決して悪くない姿である。

 どこぞの早とちりが、ツイッターかなんかで上げられた朝霧の中の姿を見て「天空の城」なんぞというデタラメをほざいたが、その高さは城下町からせいぜい300mくらいしかない。そのデタラメを群盲どもに頭から信じ込ませるだけの美しさが、このニセモノといえばニセモノの城にはある。

 実をいうと、某有名エロマンガ雑誌の別冊で、小柄な美少女剣士がこの天守閣の中で悪党と大立ち回りを演じた挙句、城下の旅館でオタクっぽい陰陽師と結ばれる、という連載があった。

 美少女とオタクのロマンスはおいといて、この天守閣で追いつ追われつの死闘は無理というものである。実際は、立派な博物館になっているのだから。

 しかし、やってみたいものはやってみたい。

 デタラメと言われようがやってみたい。

 

 というわけで、これから語るのは遠く戦国時代、武将としてこの地を治めた歌仙と、それを支えた一人の忍びの伝説である。

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