エピローグ

晴れた日は、小鳥もさえずる


 6月24日。土曜日。

 高校生になって初めてのテスト、中間テストを終えたおれは

 ひさしぶりに街へ出ていた。


 あの日、あの場所で起きたことは、今でも鮮明に思い出すことができる。

 自分のこと。

 彼女のこと。

 お互いのこと。


 今でも、迷うときはいくらでもある。

 でも、そのたびに彼女の目を見ると

 そこに映る自分の姿が教えてくれる。

 彼女が教えてくれる。

 おれは、そこにいるんだって。


 時刻は10時50分。

 今日はこの場所で、彼女と待ち合わせている。

 中間テストがあったせいで、思ったように2人の時間を作ることができず

 その間はすごく悶々(もんもん)とした気分だったが

 それも今日で、この青空のように吹っ切れるだろう。


 久しぶりに彼女と過ごすことができる時間。

 話したいことはたくさんあるけど

 たぶん、そんなこと、まったくなくても大丈夫なんだと思う。

 

 だって、おれと彼女は、お互いにわかっているのだから。

 お互いの中に自分がいて、その自分は、お互いの目を見れば

 いつだって確認することができる。

 手を握れば、いつだって感じることができる。


 11時になって、ホームに電車が入ってくる。

 おそらく、この電車に彼女は乗っているはずだ。

 ベンチに腰かけていたおれは、晴れ晴れとした気分で立ち上がる。


 今日は何をしようか。

 どんな話をしようか。

 どんな彼女を見られるだろうか。

 どんな自分を見つけられるだろうか。


 難しく考える必要はない。

 ほんの少し、意識するだけで世界は変わって見えるのだから。


 改札からは、今の電車に乗ってきたであろう人たちが

 一斉に歩いてくる。

 その中に、白いワンピース姿の、彼女を見つけた。

 控えめに手を振って、こっちに向かってトコトコ駆け寄ってくる。

 強い日差しを避けるように、彼女は大きな麦わら帽子をかぶっていた。


「肇くーん」


 今日はいい天気だ。

 ちょっと空を見上げれば、どこまでも青い空が広がっていることがわかる。


 おれは、彼女がいる方向へ、ゆっくりと歩き出した。

 さっきまで聞こえていた小鳥のさえずりは、もう耳には入ってこない。


 おれの意識は、目の前の彼女だけに向けられているのだから。



―― 終わり ――

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晴れた日は、小鳥もさえずる ぼたん鍋 @nabebotan

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