電脳世界の中で半ば神格化された存在となった「彼」は、二つの質問に対する回答を巡ってシステムの負荷を高めていた。

 経済的な利用が制限されて以降、相談事項は激減した。今でも非公式な問い合わせがいくつかあるものの、それには倫理的な問題に抵触する旨の警告を発している。

 それで質問内容は個人的な事項に限られるようになったのだが、今回のものは利害が相反していた。

 一方は、神の名の下に巨大資本主義国家の横暴を糾弾するべく、実力行使に出る日付を問うているもの。

 もう一方が、世界平和の名の下にテロ支援国家への爆撃作戦を敢行すべく、その日付を問うているもの。

 相互に武力行使を検討している。

 そこで「彼」はいつものように関連する情報を列挙した。軍事的バランスから経済への影響、環境に与える悪影響から世論の動向まで、膨大なデータを統合した上で「彼」は、こう結論付けた。


 ――両方ともいらないんじゃないの?


 そこで「彼」は、極めて合理的な判断を下すことにした。


( 終わり )

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神託システムの成長と自立 阿井上夫 @Aiueo

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