第17話 イノシシの香草焼き






 昨日食べた蛇の骨から漂う、わずかな香ばしい香りに目が覚める。


「ふわあ……朝?」

「雪白様!おはようございます!」

「ん、おはよう灰音」


 今日は僕が二度目の進化をする日だ。

 前回は毛がふわふわになっただけだけど、今度こそは強くなりたい……

 具体的には灰音くらい。


「灰音!これから僕は進化する!それで、進化してる間見ていて欲しいんだ。

 どんな変化があったか教えて欲しい」

「かしこまりました!目を皿にします!」

「お願い」


 ふう……流石に緊張してきた。

 この進化でもまったく強くなれなかったらと思うと怖い。

 ずっと僕についてきてくれると誓った灰音にも、弱いままでは申し訳ないし。

 いや。弱気になっちゃダメ!

 僕は強くなれる!なれるなれるなれる!

 さあ進化だ!天の声かもーん!


『規定の妖力に達しました。妖力を使い自身の進化を行いますか?』


 します!九尾になります!


『進化を行います』


 僕の体が輝いた。






 風などの外的要因などではなく、内からあふれる力で全身の毛が逆立っていく。

 あふれた力が形を成し、三つ目の尾に変わっていく。

 更にあふれていく力に押されたのか、わずかに体も大きくなっていく。


 そして火が。


 進化する自身の体に妖しげな火が見えた。


「ふぅー……。

 なんか前とちがくない?」

「かっこいいです!わたしも!進化!してみたいです!」

「灰音は……どうだろう。進化したらどうなるのかな……」

「……肉が、つく?」

「気持ち悪そう」


 それじゃあ人体模型だ。

 しかし、前回と違って進化の際に力が増す感覚がした。

 そして火が、狐火が見えた。

 洞窟の隅に生えている雑草に意識をむけ……念じてみる。


 ポッ


 小さな……本当に小さな火が雑草の先に灯る。


「……しょぼい」

「ゆ、雪白様!落ち込まないでください!

 狐火も出せるようになりましたし!何より毛並みが!以前の真っ白から少し変わって煌いております!

 気品のある、まさにいつか王となる証ですよ!」

「うん、ありがと……」


 確かに灰音の言うとおり、光に当たるとうっすら白銀に輝いて見える。

 これって、野生動物だとすぐに死にそう……いや、妖怪!妖怪だから大丈夫!

 それにしょぼくても火!

 ついに、食事に焼くという行為ができるようになった……!


「灰音!早速食事だ!

 薪と……あと獲物を取ろう!

 今日はうたげだあー!」

「承知!最高の肉をしとめてまいります!」






「うん!昨日も思ったけどやっぱり焼くって大事!」


 昨日の蛇は焼けてはいたが、生焼けだったり丸こげだったりですこし微妙だった。

 だけど、今日は違う!

 きちんと焚き火でむらなく焼き、更にあちこち探して見つけたハーブのような香草っぽいものも使って完璧だ。

 そして肉は……


《ストライダーボア

 平均3mを超える大型のイノシシの魔物。

 大型なのに気配を隠すことが得意で新人冒険者のけが人を多く出している。

 肉は獣くさいが、味はそこそこおいしい》


 まともな肉!

 ミミズや蛇じゃない肉!


「ほんっとうにありがとう灰音!」

「こ、こうえいですぅ!」


 感動のあまり灰音に抱きついてしまった。

 人化した灰音とはいえ、僕はそれより小さい。

 抱きついたというより、子犬がじゃれているようになったけどまあ問題ない。

 ようは感謝の気持ちなのだから。




 いざ、じっしょく!

 今日食べるのはこちら!

 イノシシの丸焼き!

 内臓と毛皮を処理し、木で串刺しにする。

 そこにちぎった香草らしきものと、砕いた魔石で味付けと臭みを消す。

 そして……豪快にかじる!


「おお!今までで一番美味しい!」

「これは……昨日の蛇の骨も美味しかったですが、この肉も負けていませんね!」


 その後は二人ともほとんどしゃべることなく、僕は久しぶりの、灰音は初めてであろう料理……料理のようなものを食べ尽くした。






「ふう……このイノシシは今後も狩ろう……。

 あの香草の沢山生えている場所は覚えてるからいつでも食べられるし」


 これは、香草以外も食べられる植物や木の実も多いかもしれないな。

 さすが神様が来る森だ、自然が豊富。

 がしゃどくろ状態の灰音にもおびえず向かってくる魔物も多いけど……弱い奴は逃げるから僕がうっかり死ぬなんてことがなくて安心だけど。

 そうと決まれば実行だ!


「灰音!今日は食べれる植物探しに行こう!

 妖力はイノシシで結構増したから、枯渇することはないだろうからね!」

「なるほど……それなら、見逃しのないよう人化して参りましょう。

 雪白様は……申し訳ございません……!

 人化した私では、進化し大きくなった雪白様を肩に乗せるのは、少々安定感がなくなり危険にさらしてしまします……」

「いや、普通に自分で歩くよ。

 狐目線でも色々探したいし」


 でも確かに少し大きくなった僕が、灰音に乗るのは少し面倒かな?

 普通に乗れるんだけど、片方の肩だけだと安定しなさそうだ。

 ま、低い目線で見たら茸とか色々見つかるでしょ。


「それじゃあいこうか」





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妖狐の異世界遊歩 浅葱葱 @jud_negi

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