第2話 夜の会合

空を見上げる。


 カーテン越しに差し込む月明かりはとても美しく仄暗い理科準備室を優しく照らす。

優しくも冷たい光は普段物静かなこの部屋によく似合うだろう。



 光により写し出される影は二つ

片や仁王立ちする割腹の良い男の物、

もう一つは、正座だろうか冷たい床に座っている大柄な男の物だ。



仁王立ちしている男【エイレ】が深く息を吸う、


「ですから、百目鬼先生にはもっと教員として理性ある行動をっ…」


粛々と語られる言葉の刃には隠しているつもりの怒りをのせ鋭く大柄な男【百目鬼】に突き刺さる


「はい、十全に存じ上げております。この度は私が悪うございました。」


と頭を下げ、立ち上がる。


すると先程まで見上げていた百目鬼とエイレの視線が逆転する。


「相も変わらず君は大きいな、昔話に出てくる鬼のようだ」


口角を吊り上げるエイレ、それに対して百目鬼も口角を吊り上げる。


「いえいえ、かつてビックボスと呼ばれた貴男の偉大さには負けますよ」



HAHAHAという笑い声が準備室に満ちる。

ミシミシと軋む音と共に机やビーカーに罅が入る。

互いを牽制する覇気が圧となり、物質を壊し始めたのだろう。


「さて、お遊びはここまでにして」


百目鬼が覇気を引く、先程まで悲鳴をあげていた机はその声を潜め、再び静寂が部屋を支配する。


「貴男が分けもなく私を捕まえることは無い」

今回のように御説教以外にね、そもそも説教なら夜にする必要は無いのだから。

と肩をすくめ眼下の男を見る。


「ふふ、そうだね。君には喜報なのか悲報なのか…」


と一拍おいて、言い放つ

その言葉は百目鬼にとって最も聞きたくない言葉であった



刹那、エイレの背筋が凍りつく

まるで脊髄に鉄の杭を穿たれた用な感覚、明確な死を告げられたかの様な錯覚を感じたのだろう。


エイレは自信に絡まる死の感覚を振りほどき、その現況の男を見る。


そこには、狂気的な笑い声を発しながら見た者を魅入らせる様な蠱惑的な笑みを貼り付けた百目鬼がいた。


ふと、笑い声が止まり百目鬼がグリンとエイレの眼前に顔を近付ける。

その両手は肩を掴み、抑えきれない力をエイレにぶつける。


骨が軋み、肉がめり込む


尋常ならざる痛みを耐えていると深淵の如き深い深い闇色の瞳をした百目鬼が静かに声帯を震わせる


「教頭、今私は理性的ではない、早く、早くその施設がどこにあるのか教えてくれ、わた、私の、私とはこれ以上出しては行けない、出ていいのは私と彼と私の【生徒達】のみだ、そうでなくてはいけないのだ」

と嗤う、笑う、嘲笑う、それはまるで


「教えるから、まずは肩の両手を外してくれ無いかね」

正直、痛いんだよと苦笑する。

その言葉を聞いた百目鬼が、ハっと意識を取り戻したかのように両手を話す。


「すいません、我を失っていた用です」


と先程とは違い狂気を感じない笑みを浮かべる百目鬼に施設の情報が載った書類を手渡し踵を返し準備室から出ようとする。


「それは有効活用してくれ、あとそれと」

間を置く


百目鬼はエイレの背を見ながら首をかしげる。




釘を刺す、彼のやっていることは少しではあるがわかっている。


生徒の心の中に巣くう闇…狂気を、育て開花させている、それによりここ最近武装高校からは退学者が増えているのだ。


正直、そんなこと止めさせたいが、実際彼に相談して成績が戻る生徒も多いためそんなの事言えるわけが無い故の釘だった



「ええ、ありがとう御座います。有効に使わせて頂きます。それと」



その言葉を聞くとエイレは準備室から出て行く、納得はしていないだろうが見逃してくれたのだろう。


百目鬼はため息を吐き微笑む、とてもとても綺麗な笑みであった。


書類を再び眺める


「ん?何だこれ」


書類の裏に書かれたメモがある、どうやら百目鬼に当てたメモのようだ


【常日頃体調が思わしく無い生徒がいるので、試しにカウンセリングしてください】


全くエイレ教頭あのひとという人は、私を危険視しているのか、していないのか解らない人だと苦笑して自分も準備室から出て行く、その顔には禍々しい口元を隠すハーフマスクが付けられていた。







この日、二つの施設の研究者が鏖殺された、犯人は【黒き混沌】【戦鬼の王】と呼ばれる一人の男と見られる。


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生物教師は紅茶の匂い 百目鬼百舌 @todomeki-mozu

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