第5話

 翌日の深夜、人里離れた一軒家に3つの人影があった。2つはその家の住人である青年と少女のもの。そしてもう一つは、20代半ばの女性だった。

 ホットプレートを囲み、焼き肉を楽しむ。机の端には既に空になったビールの缶が並べられていた。ほろ酔いもあり、久しく会っていなかったこともあり、会話が弾む。

「それにしても、京子さんがお祖母ばあちゃんだったとはね」

「おばあちゃんなんて呼ばないで」

 少女が右手を軽く上から下に振る。

「なに、いつまでも若くいたいって」

「違うの。捨てたあたしには、そんな風に呼ばれる資格なんてない」

 逃げると決めたあの日、一族どころか幼い息子さえも捨てて、命を絶った。それしか逃げる方法を思いつかなかったから。息子さえ楔に感じるほど、逃げたくて仕方がなかった。


「でも、ちゃんと助けてくれた。あれだけの力があるなら、もっと使えば先生も楽なのに」

 ねえ、と青年の方を見る。青年は苦笑いを返すのみ。答えたのは少女の方だ。

「瑠璃子さんが、夫の依頼さえ受けなかったのと同じ理由。あたしが長くいることが重要なんです」

「なーに言ってるんですか。わたしは、あいつらと戦う力を残しておかなきゃ、だめだったんです」

 女性陣二人の会話が続く。その間に、青年はせっせと肉を口に運んでいる。


 肉も野菜も全て平らげると、青年は二人に向かって同じ質問をした。

「これから、どうするんだ」

 二人が受け取る意味合いは、少し違う。今までが違うから。そして、彼との関わりも違うから。ただ、その質問は、二人の酔いを減らすことに成功していた。

「わたしは、あの人がいなくなるまで、あの人と一緒にいるつもり。絶対に一人にしないって約束したから」

 今回はちょっと一人にしちゃったけどと、小さく付け加える。

「あの人のそばにいるって決めたから。あの人と引き合わせてくれたこと、先生とお祖母ばあちゃんに本当に感謝しています」

 そこまで言って、女性は表情をきつくする。

「で、あの人がいなくなったら、一族をぶっ壊す。あんなもの、ない方がいいから」

「瑠璃子さんが一族をぶっ壊す時は、あたしも手伝うよ。だから、声かけてね」

 約束だよと女性にほほえみかける。笑みの裏には、声を掛けなかったら許さないから、という表情が隠れている。

「それまでは、今までと一緒。先生のアシスタントをしてる。必要でしょ」

 肯定を求め、青年に笑顔を向ける。

「ああ、そうだな」

 頼むよと、青年も少女に笑顔を返す。


 窓の外に朝の気配が出てきた。

「もうそんな時間か」

 少女のつぶやきに、女性が時計を確認する。

「では、あの人が起きる前に私は戻ります」

 立ち上がり、伸びをした。

「またそのうち遊びに来るから」

 一瞬前まで女性がいたと空間に向かって、少女は呟いた。

「いつでもおいで」


 二人きりになった部屋の中には、既にホットプレートも缶もない。

「先生ってば、仕事が早いんだから」

 言って、青年を探すとあくびをしながら部屋を出て行くところだった。

「今日も予定は入ってないよな。寝てくる」

「大丈夫、私も寝る」

 慌てて駆け寄る。部屋の明かりが消え、戸が閉まる音が静寂に響いた。

 夜の出来事を忘れて、いつもと同じように朝がくる。

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霊介師 陽月 @luceri

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