Personal code(脚本)

枝戸 葉

第1話

『Personal Code』



◆登場人物

 谷崎 則文 (32)

 桐原 佳子 (29)

 中田 公造 (45)

 松本 正史 (26)

 佐々岡 隆一(35)

 平田 希美 (22)

 平田 夏希 (18・故人)

 篠崎 英明 (42)

 春名 彩  (18)

 出口 健  (23・故人)




○ 都内・中流マンション・リビング(夜)

  大きめのTVモニターからパチンコのコマーシャルが流れている。続いて政党コ

  マーシャル、しばらくして夜のニュース番組へと変わる。

  谷崎則文(32)コーヒーを持ちソファに座り、TVを見る。

  桐原佳子(29)、自分のパソコンの前から振り返り、TVを見ている則文を見

  つめる。則文と目が合い、

佳子「則文、何か食べる?」

則文「いや、いい」

佳子「コーヒー、飲み過ぎ。胃ガンになるよ。うちの母さんみたいに」

則文「うん」

  佳子、立ち上がり台所へ。

佳子「手術から何年も経つのにね。もう前みたいに何でも好きな物、好きなだけ食べ

 たりできないんだよ」

  佳子、台所からお菓子を取って来て、則文のそばに置く。

佳子「せめて合わせて食べた方がいいよ」

則文「うん」

  則文、コーヒーを飲みながら自分のノートパソコンを引き寄せ、仕事を始める。

  則文の携帯電話が鳴る。

則文「はい」

  携帯を手にベランダに出る則文。佳子、それを見送りながら持って来たお菓子を

  開け、つまむ。


○ TV局(夜)

  中田公造(45)が則文に電話をしている。

中田「谷崎、起きてたか」

則文「はい、まだ全然」

中田「スマンな、遅くに」


○ ベランダ(夜)

  則文、タバコを吸いながら話す。

則文「いえ、俺も明日のインタビューの件でちょっと電話しようかと思ってたので」

中田「ああ、それな。なしになった」

則文「何かあったんスか」

中田「うん。谷崎。お前、前に出口健特集やったよな」

則文「俳優の? やりましたけど」


○ 局(夜)

中田「その出口がな。自殺したんだ」

則文「そりゃまた…じゃあ明日はそっちに?」

中田「ああ」

則文「了解です」

中田「すぐ来れるか」

則文「もちろん、じゃあすぐに」

中田「ああ、それとな」


○ ベランダ(夜)

則文「はい」

中田「どうも女の家で死んだみたいなんだ」

則文「女スか」

中田「詳しい話はこっちで」

則文「分かりました」


○ 同・寝室(夜)

  則文が着替えて出かける準備をしている。

佳子「急な仕事?」

則文「うん」

  佳子、バスタオルと着替えを手に取り、

佳子「私もそろそろ働こうかな」

則文「佳子は無理することないよ」

  佳子、則文を見て、

佳子「行ってらっしゃい」

  佳子、寝室を出て行く。

則文「帰りはいつになるか、ちょっと分からない」

佳子「分かってるー」


○ 同・玄関(夜)

  用意を済ませ、やってくる則文。隣の風呂からシャワーの音が聞こえる。

則文「行ってきまーす」

佳子「はーい」

  則文、家を出る。


○ 同・バスルーム(夜)

  佳子、シャワーを浴びながら鏡に映った自分自身を見つめる。


○ TV局内(夜)

  深夜にもかかわらずチラホラと動きのある社内。

  則文、到着し佐々岡隆一(34)に挨拶をする。

則文 「佐々岡さん、おはようございます」

佐々岡「あれ。谷崎、さっき帰ったじゃん」

則文 「いや、ははは」

佐々岡「出来る奴は大変だねえ」

則文 「部長は?」

佐々岡「その辺に居るでしょ。大丈夫なのかね、あの人しばらく家帰ってないでし

 ょ。奥さんとか子供とかさあ。お前も佳子ちゃん泣かせてるんじゃないの。良いカ

 メラマンだったのに、こんな奴と一緒になっちゃって」

則文 「独り身は気楽ですか。何見てるんです? サボりですか」

佐々岡「違げーよ。情報収集」

則文 「何スかコレ」

  佐々岡のモニターに表示されている文字を見る則文。Black Sourceと名付けられ

  た掲示板のようなサイト。

佐々岡「聞いて驚け」

則文 「ああ、なんだ」

佐々岡「んだよ、知ってるのか」

則文 「トラッシュじゃないスか。捨て情報の共有場所でしょ。フリーの」

佐々岡「そう捨てたもんじゃないんだよ。たまに、いいネタあるんだわ」

  中田が戻ってくる。

中田 「おう、谷崎」

則文 「おはようございます。佐々岡さんTV屋は足ですよ」

佐々岡「俺は編集屋だよ」

  則文、中田に近づく。

  中田、松本正史(26)を連れて自分のデスクに座っている。

中田「谷崎、あっちで」

  中田、喫煙所を指差す。


○ 同・喫煙所(夜)

  ガラス張りの喫煙ルーム。

  中央に机と椅子があり、則文がノートパソコンを開いてタバコを吸っている。中田

  が入って来て向かいに座り、同じようにノートパソコンを開く。

  喫煙室に置かれたTVモニターから深夜のニュースが流れている。出口健自殺の

  ニュースである。

中田「1報出たね」

則文「この画、前の特集のですか」

中田「そう」

  しばらくTV画面を見る2人。

中田「でだ」

則文「はい」

  中田、USBを則文のパソコンに差し込む。

中田「警察発表と、事務所からの発表のデータ」

則文「事務所からも。早いですね」

中田「内々でね。5年前の様なケースもあるし」

則文「…亡くなったのは今日の夕方。死因は?」

中田「一酸化炭素中毒。まあ、練炭だな。風呂場を目張りしてたらしい」

則文「手が込んでますね」

中田「うん。しかもその場所が自宅じゃなくて、女の家だっていうんだから。今日

 の20時40分頃、帰宅した女性が第一発見者」

則文「その女性というのは?」

中田「平田希美。22歳」

則文「警察発表ですか」

中田「そう」

則文「じゃあ、名前は伏せる方向で」

中田「それがねえ、気にならない? わざわざ女の家で自殺だよ。何があったんだろ

 うねえ」

則文「…」

中田「まあ、とりあえず伏せる方向で。そいや、佳子ちゃん元気?」

則文「ええ、まあ」

中田「そうか。まあ、佳子ちゃんほど使える子じゃないけど、カメラはあいつ使っ

 て」

  喫煙所の外を指す中田。松本がこちらを見ていて、則文に向かっておじぎをす

  る。


○ 郊外・マンション 台所

  朝食を作っている平田希美(22)鼻歌まじりに作業をしていく。朝食はごは

  ん、みそ汁、目玉焼き。携帯電話が鳴る。

希美「はい」

篠崎「篠崎です」

希美「おはようございます」

篠崎「平田さん。今回の事は本当に申し訳なく思っています」

希美「いえ、そんな事。言い出したのは私ですよ」

篠崎「…そうですね。あなたならこんな事をしたらどうなるか、私なんかよりずっと

 理解している。なのに何故です」

希美「私が望んだんです」

篠崎「…外にはもうマスコミが一部嗅ぎ付けています」

希美「そうですか」

篠崎「では」

  電話が切れる。希美、姿見の前で髪型、服装をチェックする。


○ 郊外・マンション表 車内(朝)

  松本がマンションの管理人に取材したデータをプレイバックしている。モニター

  に映る管理人のおばさん。

管理人「さあ、分からないですねえ、だってここのマンションだけで百人以上住んで

 いますし、管理人っていっても、何から何まで監視してる訳じゃないですからね

 え、そんなことしたら訴えられますよ、最近うるさいんですよ、なにからなにま

 で、この前だってちょっと違反自転車を移動しただけですぐに管理人室までやって

 きて、自分が悪いのに私が無断で動かしたとか言われちゃいましたもの、やってら

 れませんよ、ねえ…そう思いません?」


○ 同・表

  則文、一人周辺をうろつく。まばらな取材陣、その奥のかなり離れたところに窓

  にスモークがかかった車が停車しているのに気づく。それに何か惹かれるものを

  感じ、そちらに歩みを向けようとした時、マンションの方が騒がしくなる。


○ 同・マンション ゴミ捨て場

  希美が取材陣に追われ、ゴミ捨て場からマンションの中へと戻っていく。

取材班1「平田希美さん! 出口健さんとはどういう関係だったんですか!」

  希美、顔を隠しながら避けるようにマンションの方へ早歩きで歩いていく。

取材班1「平田さん、何か一言」

取材班2「どうして出口さんは都内のあなたの部屋で自殺を?」

取材班3「何か心当たりは?」

  押されるようにしながらカメラを回している松本。突然希美が立ち止まり、そし

  て視線の先をじっと見つめる。

  そして笑う。

  松本のカメラが自然とその視線の先を追う。そこには遅れてやって来ていた則文

  の姿が。

取材班1「あ、平田さん!」

取材班2「何で笑ったんですか、何がおかしいんですか、ねえ!」

取材班1「出口さんはあんたの部屋で死んだんだよ! 平田さん!」


○ TV局 モニタールーム(夜)

  モニターを見ていた則文、松本、中田、佐々岡。

中田 「どういうことだ」

則文 「さあ、さっぱり」

中田 「お前を見て笑ったんだよな、あれは」

則文 「多分…」

佐々岡「谷崎、どっかで引っ掛けたんじゃない? この子」

則文 「んな訳ねーっすよ」

  松本、不安そうに周囲を見ている。

佐々岡「やだねえ、だから現場は嫌いなんだ。で、どうします? コレ」

中田 「任せる。谷崎は切れよ」

佐々岡「うっす」

  佐々岡が立ち上がり、中田が松本の頭をはたく。

中田 「バカタレ。谷崎撮ってどうするよ。女撮れ、女。お前は何しに行ってたん

 だ、ええ?」

松本 「スマセン…」

  松本、則文を見るが、則文はじっとモニターに映る女を見つめたままである。

佐々岡「松ー」

松本 「あ、はい」

  松本、佐々岡に呼ばれて出て行く。

  中田、則文の前に座り直し、

中田「平田希美がな、取材を受けるそうだ。お前を名指しで、単独インタビューだ

 と。良かったな、おい」

則文「スケジュールは…」

中田「本当に心当たりはないのか」

則文「ないです」

  中田、禁煙パイプを咥え、

中田「…俺も昔みたいに現場に出たいよ。現場だったらこんなもん咥えなくたって、

 なあ?」

  中田、立ち上がる。


○ 局・通路(夜)

  照明機材を持って歩く松本と則文。

松本「谷崎さん」

則文「何?」

松本「佳子さんって、谷崎さんとずっと組んでたんスよね」

則文「ん、まあ」

松本「いや、だからなんスかね。俺、ここんとこ毎回その佳子さんと比べられるんで

 すよ。会った事もないんスけど…仕事できる人だったんですよね」

則文「頭のいい人だよ」

松本「俺は馬鹿だからなあ」

則文「…」

松本「まあ、その佳子さんみたいにはいかないと思いますけど、俺頑張りますんで」

則文「今日のカットさ、何で俺の方にカメラ振ったの?」

松本「え、何ででしょう。何も考えてなかったんじゃないスかねえ…単に視線追った

 だけというか」

則文「ふーん」

松本「いや、スマセン。もうちょっと考えて回します」

則文「いや、カンなら大したもんだよ」

  則文、機材を車に乗せ終え、去っていく。

松本「え?」

則文「お疲れ」

松本「あ、お疲れさまです」


○ 都内・中流マンション リビング(夜)

  TVに希美の笑顔がストップモーションで映っている。アナウンサーとコメンテ

 ーターがその笑った顔について批判を口にしている。ソファーに座ってそれを見て

 いる佳子。

  玄関から則文が帰ってくる。

佳子「お帰り」

  則文、TV画面を見て立ち止まる。

佳子「すごいね、この女の人。いい度胸してるわ。則文もこの取材?」

則文「うん。この場にいたよ」

佳子「本当に自殺? こいつが殺してたりして…だって普通じゃないでしょ」

  則文、そのまま寝室へ。

  佳子、様子がおかしい事に気づき、視線で追う。


○ 同・寝室(夜)

  着替えもせずベッドに倒れ込んでいる則文。佳子が入ってくる。

佳子「則文、お風呂は?」

  反応はない。

佳子「ご飯は?」

  反応はない。

佳子「じゃあ、私か!」

  佳子、則文の上にのしかかる。そのままもつれる2人。

則文「佳子」

佳子「うん? 」

則文「あの女は俺を見て笑った」

佳子「TVの? 」

則文「俺はすぐ分かったよ」

佳子「何の話? 」

則文「5年前の話だ」

  佳子、動きを止める。体を起こす則文。

則文「5年前、俺と、お前と、中田部長の取材…あの子は当時18歳だったか」

佳子「夏希」

則文「うん。確か本名が平田夏希」

佳子「じゃあ、あの子は」

則文「確か妹がいたよ。葬式で会った」

佳子「私たちが殺した、平田夏希の妹」

則文「確証はない。けど、多分…」

佳子「…」


○ 群馬県 とあるさびれた駅

  一人駅を下りる佳子。


○ 事務所・取材室

  則文、中田、松本が取材の準備をしている。

  篠崎英明(41)が入ってくる。

篠崎「いや、どうも、お疲れさまです」

中田「ああ、篠崎さん。いつもお世話になってます」

篠崎「いやどうも。今回はお手柔らかに」

則文「宜しくお願いします」

篠崎「こちらこそ。出口の特集はとてもよかった」

則文「ありがとうございます」

篠崎「出口も喜んでいたよ。まあ、今となっては、ね。良ければまた頼むよ。いい若

 い子がいるんだ」

  モニターを見る篠崎。つられて則文もそちらを見る。

篠崎「アイドルなんて、ウチの色じゃないなんて、色々言われてはいるんだがね」

  モニターに映っているのは今売り出し中のアイドル3人組。中央に映る春名彩

  (18)が目に付く。

中田「かわいいなあ」

篠崎「いい子ですよ。これからもっと売れますから、是非ね」

則文「はあ」


○ 同・別室

  希美と春名が向き合って座っている。無言。春名彩は目を伏せがちに、居づらそ

 うにしている。篠崎が入ってくる。

篠崎「春名! お前何でこんなとこに居るんだ」

  篠崎、イライラと二人の周りをうろつき、

篠崎「お前はもう帰りなさい」

春名「…」

篠崎「春名。誰のためにこんな事してると思う。お前の為じゃないか。何で分かって

 くれない」

  春名、希美と目が合う。

春名「分かりました」

篠崎「お前は何も関係ない。だから普通に、表から出ろよ。変に気を回すんじゃな

 い」

春名「はい」

  春名、出て行く。

希美「時間、過ぎてますけど」

篠崎「構うものか。何でこんなことに…」

希美「もう引っ込みはつきませんよ」

篠崎「分かっているよ! お前、俺を騙したらただじゃ済まんぞ。分かってるだろう

 な」

希美「信じられませんか」

篠崎「どの口がそんなことをほざく。一体何が目的だ」

希美「そのうち分かりますよ」


○ 同・取材室

  待っている則文達。篠崎が入って来て、続いて望みが入ってくる。

篠崎「いや、どうもすいません、お待たせしちゃいまして」

希美「宜しくお願いします」

  希美、席に着く。則文と向かい合う。

希美「久しぶり。5年ぶりですね」

則文「…○○TVの谷崎です」

希美「お姉ちゃんの葬式以来じゃないですか。こうしてちゃんと話すのは初めてでし

 たっけ?」

則文「中田さん、1対1でやらせてもらえませんか」

希美「うん、私もそれがいい」

中田「いや、しかし…」

  中田、篠崎を見るが、篠崎は視線をあわせようとしない。

希美「そうじゃなきゃ、取材は受けませんよ」

則文「カメラはちゃんと回しますから」

  しぶしぶ出て行く中田、松本、篠崎の3人。

則文「何のつもりだ」

希美「カメラは回さないの」

則文「目的は何だ」

希美「あなたと話したかったんですよ。谷崎さん」

則文「もういいだろう。俺は、夏希があんなことになって、」

希美「自殺したんですよ。姉さんは、あなたの記事で、練炭自殺したんです。誤摩化

 さないで下さいよ」

則文「そうだよ。その通りだ。だからあれから、俺は2度とあんな事は起こしたくな

 いと思ったんだ」

希美「私、谷崎さんが作った作品、この5年間でほとんど見たんですよ」

則文「作品だと? そんな大層なもんじゃない。ただのニュースだ」

希美「大変でしたよ。探すの。でもやっぱり最高傑作は、姉さんを殺したあの援助交

 際疑惑ですね」

則文「まだ俺たちを責めたり亡いっていうのか」

希美「とんでもない。心からそう思ってます。たかが映像が人を殺せるほどの力を持

 ったんです。すごい事ですよ」

則文「本気で言ってるなら、お前はおかしい」

希美「でも、この5年間のあなたの作品はひどい。出口健特集なんて目も当てられな

 い」

則文「それだ。出口の話をしろ。俺はそれを聞きに来たんだ」

希美「谷崎さんはどう思ってるんです? 」

則文「知らんよ。材料がなさ過ぎる。お前と出口のつながりはどこにあったんだ」

希美「出口と私には何のつながりもない」

則文「何? 」

希美「カメラ回さないの? 」

則文「それは俺が決める」


○ 同・喫煙所 外

  篠崎と中田がガラス張りの喫煙所の中で何事かを話し合っている。それを外から

  眺めている松本。

  帰り支度をした春名がガラス戸を開け、中の篠崎に挨拶する。歩いてくる春名を

  目で追う松本。

松本「あ、あの…○○(グループ名)の春名彩さんですか? 」

春名「あ、はい」

松本「あ、僕は○○TVの…じゃなくて、あの、僕ファンなんです! あ、サイン、

 サインもらっても…」

春名「すみません、もう帰るので」

松本「あ、そうですよね。すみません」

春名「撮影クルーの方ですか? 」

松本「はい。一応カメラマンで、でも今日は仕事ないみたいで。ディレクターが一人

 で、ははは…」

春名「そうですか。…じゃあ」

松本「あ、はい。すみません、何か。お疲れさまです」

  春名、正門の方へと歩いていく。ふと足を止め、振り返り松本の方へと歩み寄 

  る。

春名「あの」

松本「は、はい? 」

春名「もしよければ少しお話でもしませんか」

松本「もちろん!」


○ 取材室

  カメラの録画ボタンを押す則文。

則文「もう1度、あなたと出口健の関係を教えて下さい」

希美「社長の篠崎さんに紹介されて、会いました。とても大切なパートナーでした」

  則文、録画ボタンを停止し、

則文「ふざけているのか」

希美「そう言えって言われてるんですよ」

則文「誰に」

  則文再度録画ボタンを押す。

希美「…」

則文「誰にそう言えって言われてるんです」

希美「…」

則文「俺に何をさせたいんだ」

希美「私はあなたの協力者じゃない」

則文「…」

希美「他人の秘密を暴くのが、あなたの本分でしょ」

  則文、希美を睨みつける。カメラがじっと回っている。


○ 群馬某所・墓地(夕)

  墓参りする佳子。

  墓地には誰も居ない。きれいに片付けられた墓は、しかし花がない。山の裾野に

  建てられた小さな墓地は、皆に忘れられたかのように静かに佇んでる。


○ TV局・喫煙所(夜)

  則文がタバコを吸っている。向かいに居る中田は禁煙パイプを咥えている。

中田「谷崎。お前ちょっと休め」

則文「今、休んでる暇ないですよ」

中田「今回のネタは没だ。こんなアホみたいなインタビュー、流せるか」

  中田のパソコンの画面には則文が撮った希美のインタビューが流れている。

則文「いけますよ。あいつの笑った顔がキーだ。追跡取材して、不自然な点をカット

 インしていくんです。このインタビューだって不自然だ。恋人を亡くした女の姿に

 見えますか、これが。何かを隠してる。そう印象付けるんです。可能ですよ」

中田「憶測で番組が作れるか」

則文「部長も乗り気だったじゃないですか」

中田「休むのが嫌なら他のネタをやる」

則文「部長」

中田「○○事務所の篠崎さんからな、別のネタ貰った」

則文「…」

中田「だからあの女にはもう触れるな。お前だって昔の事をもう掘り返されたくはな

 いだろ」


○ 同・社内(夜)

  電話している松本。

松本「そうなんです。突然企画中止になって。俺も明日から別の班に回されるみたい

 です」

春名「そうですか」

松本「すみません。でも、個人的に取材は続けていこうかと。何故出口さんが自殺し

 たのか」


○ 春名・自宅(夜)

春名「ありがとう」

松本「いえ、全然。はりきってますよ」

春名「…」

松本「それじゃ」

春名「あ、松本さん」

松本「はい? 」

春名「これは…言おうかどうか迷ったんですけど…社長と平田さんに、インタビュー

 の後から連絡がつかないの」

松本「え」

春名「マネージャーからも連絡できないって。何かあったのかもしれない」


○ 車内(夜)

  車を運転する男性。後部座席には篠崎と希美が乗っている。

希美「どこへ行くんです」

篠崎「…」

希美「困ります、私」

篠崎「黙って乗ってろ」

希美「ふん」


○ 古びたビル・表(夜)

  車から連れ出され、ビルに入っていく希美・篠崎、運転手の男。希美、町中を走

  るモノレールを見る。


○ 同・ビル内(夜)

  地下室に連れてこられる希美。

篠崎「ここから出すな。誰も入れるな」

男 「はい」

希美「犯罪ですよ。これは」

  篠崎、希美を無視して男と出て行く。部屋には監視カメラが。

  希美、しばらく様子を伺った後、密かにカメラの死角へ移動し、携帯電話を取り

  出して谷崎則文宛でメールを打つ。送信した直後、扉が開いて篠崎が現れる。篠

  崎、希美に歩み寄り、殴る。落ちた携帯電話を手に取り、2つに折り、

篠崎「出し抜けるとでも思ってるのか」

  携帯を投げ捨て、去ろうとする。

篠崎「監視してるぞ」

希美「訴えますよ」

篠崎「ここから出られるとでも思ってるのか? 」

希美「…」

篠崎「安心しろ。全部終わったら出してやるよ。視聴者が全部忘れた頃にな」

  篠崎、去る。


○ TV局・喫煙所(夜)

  則文のパソコンにメールが届く。そこには、”真実は明らかにされねばならな

  い”と書かれた後、おまけの様に”モノレールの下”と書き足された希美からのメ

  ールがある。

  パソコンのモニターにコールが入り、開くと佳子からのスカイプ電話である。

則文「佳子、すまん、また後で」

佳子「あ、ごめん。仕事中? 」

則文「いや…家じゃないの? 」

佳子「平田夏希のね。お墓参りに来てる。今日は1泊していくと思う。色々調べたい

 こともあって」

則文「佳子。取材は打ち切りになった。ありがたいけど、帰ってくるんだ」

佳子「別に則文の手伝いをしようと思ってこんなとこまで来た訳じゃない」

則文「佳子」

佳子「これは私の取材の続きでもあるんだよ」

則文「俺は、他人が見て、嫌な思いをするようなものはもう作りたくない。平田希美

 は捨て身で俺に何かを暴かせようとしている。それで傷つくのはあいつだけじゃな

 い。俺や佳子かもしれない」

佳子「そんなの今更過ぎる」

則文「…」

佳子「夏希のお墓は、綺麗に掃除されてた。でも花は生けられてなかったの。私はあ

 なたがいくら逃げたところで、死んでしまった人間からは逃げられない」


○ 局内(夜)

  佐々岡がパソコンと向かい合っている。則文が現れ、その向かいに座ってパソコ

  ンを開く。

佐々岡「よう。中止だって? 聞いたよ。面倒なの引いたね、お前も」

則文 「佐々岡さん。前見てたトラッシュって、信用できますか」

佐々岡「ピンキリだけど。何、なんか拾ったの」

則文 「いや、拾ったんじゃなくって、流そうかと」

佐々岡「ヤバいネタなの」

則文 「まあ、ウチじゃ出せません。といっても俺、他局に信用できる人居ません

 し」

佐々岡「深刻そうなツラしやがって、まあ」

則文 「やっぱ駄目スかね」

佐々岡「さあ、結局モニター越しに居るのは同じ人間だからなあ。相手がビビって出

 さなきゃ」

則文 「そうスね」

佐々岡「俺が流そうか」

則文 「…いや」

佐々岡「見せてみろよ、素材。あるんだろ」

則文 「佐々岡さんは現場が嫌いって言ってましたけど、何故です? 」

佐々岡「俺は編集者だからね。それじゃ説明になってねえか。現場って色んなものが

 見えるだろ。見たいものも、見たくないものも色々。でもカメラで撮ると、そんな

 物が 全部撮れてる訳じゃなくて、何かその一部分しか撮れてない訳だ。どんなに

 頑張ってもね。伝達手段に問題があるんだな。カメラも、言葉も」

則文 「分かりますけど、でもそれでも撮るしかないじゃないですか」

佐々岡「そうだな。だから現場は嫌いだよ」

則文 「でも、それじゃ何も解決しない」

佐々岡「お前らみたいな奴が撮って来た素材はさ、それでも面白いものが見えてくる

 時がある。悩んで悩み抜いた末の画だったり、マグレで撮ってしまったような画だ

 ったり。俺はそういうのがもっと見えてもいいと思うんだ。だから編集をやって

 る」

則文 「面白半分で撮って来たスキャンダルだったりもしますよ」

佐々岡「いいじゃないか、それでも。撮った奴が見えてきた方がスッキリするだろ」

則文 「そうかもしれませんね」

佐々岡「だろう? で、見せてくれるの? 」

  則文、パソコンを佐々岡の側に向け、

則文「中田部長に渡したデータからは抜きました。平田希美のインタビューの続きで

 す」

佐々岡「スキャンダルか? 」

則文 「やめるなら今です」

佐々岡「…何、たかがニュースだ」


○ モニター

則文「あなたは誰ですか」

希美「平田希美です」

則文「出口健さんが自殺した時に、あなたはその部屋の住人であったと報道されまし

 た。それは事実でしょうか」

希美「いいえ、違います」

則文「では、事実は? 」

希美「出口さんが亡くなられたのは、友人の春名彩さんの部屋でした」


○ 外

  慣れないタバコを吸いながら、死んだ日の出口の足取りを追っている松本。出口

  と春名の関係を知る。

希美「彩とは○○TVの報道で自殺した姉、夏希を通じて知り合った友人でした。姉

 が亡くなった後も連絡を取り合っていて、親しかったと思います。だから、彩は私

 に連絡したのでしょう。死んだ出口さんを見つけたのは彩でした」


○ モニター

則文「あなたは春名さんの次に現場に?」

希美「はい」

則文「何故噓をついたんです」

希美「チャンスだと思いました」

則文「チャンス? 」

希美「彩は事務所にも連絡していました。それで、やって来たのは事務所社長の篠崎

 さんと、○○TVの中田さんでした」

則文「…」

希美「あなたの上司ですよ」

則文「バカな」

希美「私の次に来たのがその2人です。事実です」

則文「それから? 」

希美「2人はどこの誰か分からない私が居た事に驚いた様子でした」

則文「それはそうでしょうね」

希美「私と彩に聞こえない所で話をしていました。スキャンダルをおさえるために、

 とか所々聞こえましたが、よく分かりません。彩は動転していて、それどころじゃ

 なかったと思います。だから、私が身代わりを申し出ました」


○ 局(夜)

佐々岡「これ、裏はとれてるのか」

則文 「いえ、部屋は篠崎名義で、他にも同じ様な事務所の部屋があるので春名の住

 居の裏はとれてません。平田希美の元住所から裏を取ろうかと」

佐々岡「それ取ってこい。今すぐ」

則文 「はい」

  則文、立ち上がる。

則文 「佐々岡さん。そこから先も含めて、どう使うか。お任せします」


○ 地下室

  机の前に座らされている希美。

篠崎「私は出口健と2ヶ月ほど前に出会いました。良かったのは最初だけで、すぐに

 上手く行かなくなりました。出口さんは仕事が上手くいっておらず、毎日のように

 私に当たり、酔って暴力を振るわれた事もありました」

  じっと聞いている希美。

篠崎「書け」

希美「オチは?」

篠崎「仕事が上手くいってなかった出口はお前との口論の末、逃げ場もなく、自殺。

 それにショックを受けた君は心の病にかかる」

希美「割と平凡な話ですね」

篠崎「平凡だから受け入れられる。何だってそうだ。お前みたいなのが居るからやや

 こしくなる」

希美「これは遺書ですか」

篠崎「まさか。これを発表して君は雲隠れ。しばらくすればいつも通りだよ」


○ 局・外

  則文、希美の電話をかけるがつながらない。

  局に戻って来た松本と鉢会う。

則文「松、カメラ貸せ」

松本「谷崎さん、俺もう何がなんだか…谷崎さんは知ってたんですか、出口と春名さ

 んの事」

則文「今から裏を取る」

  松本、カメラを渡さない。

松本「駄目ですよ。やめませんか、一番傷つくのは春名さんですよ!」

則文「人が1人死んでる」

松本「出口に興味なんかないでしょ。そうじゃないでしょ、あなたは。そうやって他

 人の秘密ばらすのが好きなんですよ。それを人に宣伝せずにはいられないんだ。自

 分勝手過ぎやしませんか!」

則文「お前、向いてないよ。辞めちまえ」

松本「そうですね」

  則文、カメラを奪い取る。

松本「谷崎さん、春名さんから聞きました。篠崎と平田希美に連絡が取れないそうで

 す」

則文「分かった」


○ 局

  モニターをじっと見ている佐々岡。

希美「つまり私は、ここで全て私が話す事を目的に、噓をついた。事実を曲げるお得

 意のお家芸を逆手に取って、あなたたちに傷ついてもらう為に」

則文「もういい。分かった」

希美「分かった? 何を。まだ終わりじゃない」

  希美がカメラを取り、則文に向ける。驚く則文が画面に映る。

希美「公平でなければ」

則文「俺に何を話せと」

希美「あなたの作品について解説を。谷崎則文さん。私はプロじゃないから、上手く

 インタビューできないかもしれないのが、少し残念ですけど」

則文「…」

希美「どこからでもどうぞ。一通り見ているので」

則文「…」

希美「自分の事になると黙るのは卑怯じゃないですか? 他人の事は好きにいじり回

 しておいて」

則文「後悔している。夏希さんが亡くなった事は、本当に」

希美「懺悔が聞きたいんじゃないんですよ。解説を」

則文「…」

希美「何であんなもの、作ったんです。あなたがあんなものを作らなければ、姉さん

 は死ななかった」

則文「理由なんかないよ。面白そうだったからやった。中田部長も、これは面白いっ

 て乗り気だった」

希美「でしょうね。とても面白かったですよ。死ぬほど面白かったんです」

則文「…」

希美「じゃあ、何でそれ以後はあんなつまらないものばかり作ったんですか」

則文「言っただろ。後悔したんだよ。それに、業界全体で自粛する空気になった」

希美「で?」

則文「以前までの様なものは撮り辛くなった。それだけだよ」

希美「結局あなたは流されてるだけじゃないですか。だからあんな物、平気で作って

 しまうんですよ」

則文「…」

  部屋に中田が入ってくる。慌てて画面を消す佐々岡。

佐々岡「お疲れさまです」

中田 「おう。谷崎は? 」

佐々岡「帰ったんじゃないスかねえ」

中田 「電話に出ないんだ。あいつから今日貰ったデータ、ファイルナンバーに抜け

 があるんだよ」

佐々岡「へえ。あいつらしくないミスですね」

中田 「そうだな」

佐々岡「んじゃ、俺お先に」

中田 「ああ。お前からも連絡しといてくれないか。あいつ、1人で背負い込んじま

 うネクラなとこがあるからな」

  言って笑う中田。

佐々岡「了解です」


○ 希美のマンション

  則文、チャイムを押す。ドアを叩く、が、反応はない。外から回って様子を見て

  も、人の気配はない。


○ 事務所

  事務所で希美の居所を聞く。すると、サボり防止用の携帯GPS機能から、社長

  の篠崎の居場所が判明する。居所は立川。多摩モノレールがすぐそばを走ってい

  る。


○ 車をとばす則文。

  ふと見上げると、眼上にはモノレールが走っている。


○ 地下室

  紙に書き終える希美。密かにペンを隠し持つ。篠崎、紙を手に取って読み。

篠崎「協力してくれて助かるよ」

希美「結局、出口さんは何故自殺したんでしょう」

篠崎「知らん」

希美「それが分からないことだけが心残りです」

篠崎「何を言っている」

希美「それ以外は、もう終わったので」

篠崎「インタビューには問題はなかったと言っていた」

希美「問題はない。面白いですね、それは」

篠崎「中田め…何を考えている」

希美「さあ、何を考えてるんでしょう。何も考えてなかったりして」

篠崎「お前…」

  希美に近づく篠崎。隠し持っていたボールペンで希美が篠崎を襲う。ペンが篠崎

  の腕に突き刺さり、悲鳴を上げる篠崎。椅子を持ち上げ、篠崎を殴りつける希

  美。部屋の外にいた男、悲鳴と物音に気づき、階段を地下へと下りる。部屋に入

  ると篠崎が倒れてうめいている。

男 「社長!」

  希美、ドアの影から、折れた椅子の足で男を殴る。倒れる男。

  気づくと篠崎が起き上がろうとしている。希美、急いで部屋を出て、階段を駆け

  上がる。するとそこにはもう1人、男の姿があった。TVを見ていた男と目が合

  ってしまう希美。

  希美、逆方向へと駆け出す。そのままビルの2Fへと上がる。男、それを追う。

  篠崎がよろけながら地下から上がって来て、逃げた希美を目線だけで追う。

  希美、2Fのある部屋の窓を開ける。男、部屋に入ってくるが、希美、そのまま

  飛び降り、コンクリートの路上に倒れる。起き上がろうとするが足を痛めてしま

  っており、再び倒れる希美。ビルの扉が開き、篠崎が希美を見る。その時ビルの

  前に則文の車が止まり、

則文「乗れ!」

  則文の差し出した手を掴む希美。走り出す車。


○ 車内

則文「大丈夫か」

希美「別に。平気です」

則文「噓つけ。足、折れてるかもしれん」

希美「平気ですから」

則文「バカな奴だ。何で俺なんかにメールを送った。俺が来なかったらどうするつも

 りだったんだ」

希美「そしたら、這ってでも逃げましたよ」

  苦笑する則文。

則文「お前の話の裏を取りたい」

希美「そう」


○ 車、走り去る


○ 佐々岡宅

  電話が入る。

佐々岡「はい」

則文 「佐々岡さん。裏、取れました」

佐々岡「早いな」

則文 「はい。偽装も何もなかったです。拍子抜けですよ」

佐々岡「じゃあ、いいんだな」

則文 「はい、お願いします」

  電話が切れる。佐々岡、電話をかける。


○ 則文自宅マンション前

  希美を下ろす則文。

則文「歩けるのか」

希美「うん」

則文「○○号室だ。とりあえず今日はここに泊まった方がいい」

希美「あなたは?」

則文「俺は見届けに行かなくちゃ」

希美「そうですか」

則文「後悔してるのは本当なんだ」

希美「一生後悔すればいいです。でも、それを言い訳にしないで」

則文「そうだな。じゃあ」

希美「ええ」

  車、発進する。


○ 局

  ソファーで寝ている中田。TVは点きっぱなし。その放送が始まる。電話のない

  その部屋に、電話の音が響く。中田、画面を食い入るように見つめ、引き出しを

  開いてそこにあった古い電話に出る。

中田「中田です」

  引き出しの中には電話と、謎の錠剤。机の上には家族の写真が飾ってある。


○ 某所

  街頭モニターで春名、放送を見る。松本が立ち止まった春名の手を取り、歩きは

  じめる。


○ 放送


○ 他局・駐車場

  佐々岡と則文、タバコを吸っている。缶ビールを飲む2人。

則文 「お疲れさまでした」

佐々岡「お疲れさん」

則文 「いいんスかね。ここでこんな事して」

佐々岡「構やしねえよ。どうせ2度と来ない」

則文 「確かに」

佐々岡「久々に頑張っちゃったな、俺」

則文 「中田さん、大丈夫ですかね」

佐々岡「義理は欠いた。ま、いつもの事だけどね」

則文 「俺、ちょっと寄ってきます」

佐々岡「おいおい、飲酒運転だぞ」

則文 「いや、電車ですぐですから。歩いて行きますよ」

佐々岡「そっか。宜しくは、言わなくていいや。部長、お前の事心配してたよ」

則文 「そうですか」

佐々岡「じゃあ」

則文 「はい、また会社で」


○ 路地

  缶ビール片手に歩く則文。

  突然現れた篠崎に刺される。

篠崎「あいつはどこだ」

  則文のシャツを掴んで問いただすが、則文はナイフが致命傷で、うまく喋れな

  い。

篠崎「くそう!」

  篠崎、則文を放り出し、去る。則文死ぬ。


○ 局

  中田、錠剤を飲み服毒自殺。


○ 則文宅

  佳子が帰宅すると、ソファーで希美がTVを見ている。

佳子「あなた…」

希美「お邪魔してます」

  ×  ×  ×

  2人並んでTVを見る。

佳子「夏希さんのお墓に行ってきました」

希美「そうですか。寂しい所だったでしょ」

佳子「でも綺麗に掃除されてましたね。あなたが?」

希美「ウチ、父さん早くに死んだし、母さんは体が悪くて」

佳子「そうなんですか。でもなんでお花がないのかなって」

希美「うーん、別に。ただ何か、似合わないでしょ」

  希美、言って笑う。佳子、その希美に一瞬見とれて、

希美「さて、じゃあ私はこれで」

佳子「泊まっていってください」

希美「いや、いいです。変な情、湧いちゃいそうだし」

  佳子、スマホを取りだし、希美と並んで写真を撮る。

佳子「記念に。送りますよ」

希美「名カメラマンの写真ですか。連絡先は則文さんが知ってます」

佳子「ええ、それじゃあまた」


○ TV局 1ヶ月後

  パソコンに向かい、映像編集をしている佳子。

佐々岡「よ、お疲れ」

佳子 「部長」

佐々岡「復帰したてなんだから、無理しないでね」

佳子 「ですねえ、やっぱ5年のブランクはなかなか」

佐々岡「ははは…ねえ、佳子ちゃん。何で俺が戻らないかって誘った時、断らなかっ

 たの。俺が言うのも何だけど、もう十分嫌な思いはしたでしょ」

佳子 「まあ、半分は生活の為、生きて行くために仕方なく、ですね」

佐々岡「そっか。助かるよ。谷崎の穴は思ったよりでかくてなあ」

  谷崎のデスクには花が生けられている。

佐々岡「後半分は?」

佳子 「則文にも花は似合わないですよね」

佐々岡「ん、そうか?」

佳子 「はい、なんとなく」


○ 喫煙所

  佳子、タバコに火をつけパソコンと格闘している。正面のTVモニターから事件

  の経過が放送されている。篠崎は殺人で逮捕された。希美は行方不明。春名の行

  方も分からない。佳子のパソコンに、希美からメールが届く。

  佳子、じっとTVモニターを見つめる。



                               了

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Personal code(脚本) 枝戸 葉 @naoshi0814

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