いきる

紅い天の夜が明けて幾日のち、人形師の彼はやはり果てるまで絡繰を何体も、何百体も造ることしかできなかった。彼自身が操られているかのように、ただ、造った。数多の家族を焼き尽くしてヒトと相成った彼と彼女が何処を目指すのか、知ることはできず、知ったとてきっと何もできず、喪失の痛みは彼の指先を能く出来た絡繰にした。今や彼という生きものはその指先にしか存在せぬ。復讐、執着、代替、呼び方など些細なことである。狂ったように造り続けなければ、生命の歯車が瓦解したに違いない。人であったがゆえの生存本能がそれを食い止めてしまったことを、人は僥倖と呼びはしないだろう、けれど、それでも。

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空躯 言端 @koppamyginco

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