第32話 マイナス三十度
第32話 マイナス三十度
銃口を岩の広がる地平線に向けた。
銃口を地平線に沿って、パノラマ写真を撮るようにゆっくりと移動させる。
三百六十度、すべての方向をカバーするようにだ。
「近くに水か街があるか?」
『南10kmに海。塩水でも飲みます??』
「いやだよ。街はないのか?」
『北からマイナス30度方向20kmに街がありますね。』
「良かった。そっちを先に言えって。」
『え〜、海行きたーいです。』
「いやお前沈むだけだろ。挙句錆びるぞ。」
『最新のコーティングなので錆びませーん。私の水着、見たくないですか?』
「誰だよこんな機能をつけたのは。」
『私の機能、性格は所有者の好みによって変わるんです。』
「僕の好み?? 冗談よせよ。」
『素直じゃないんですね。』
「はぁ……お前ちょっと電源切っとけ。」
「名残惜しいですが、アキヒロの命令は絶対なんですよねー。今後あんなことやこんなことを命令されると思うと私、少し心配です。」
そんな皮肉を言ってから、その銃は喋らなくなった。
黙って電源を切っていた頃がすでに懐かしい。
しかし僕にはもう一つ、すっかり僕をなめきった生意気な銃ではない方の銃がある。
「チトセ、この岩の上に銃が落ちてなかったか? 取りに行きたいんだけど。」
「持ってきた。」
「あ、そう。」
彼女はスカートの下、彼女のスパッツの上に巻かれた銃の入ったホルダーを取って、こちらに渡す。
僕は中から銃を取り出す。
『新しい所有者の指をかざしてください。新しい所有者の指をかざしてください。』
僕は自分自身の指をトリガーに添えた。
『指紋登録完了。新しい所有者の名前を登録することができます。登録しますか?』
「アキヒロで頼む。」
『了解。アキヒロ、よろしくお願いします。』
「よろしく、期待しているよ。もう一丁の調子が悪くてさ。」
『そうなんですか? 私と同じバージョンのようですね。あとでチェックしましょう。』
「頼むよ。」
『了解。』
「さてと、北30度か……。」
夜までに街につければいいのだが……
岩石地帯を日の光、つまり最もここから近い恒星、に背を向けて歩く。
その間、僕はチトセに質問をぶつける。
「なんで突き落としたんだ? 僕を傷つけられないはずなのに。」
「アキヒロに私の技術を伝えるために、つまり、あなたを守るために必要なことだから。」
なんだそれ……。解釈の仕方次第でなんでもありじゃないか。憲法かよ。
「回路を使うための第2段階って何なんだ?」
「高跳び。」
「高跳び?なんでだ?」
「2028年ロサンゼルスで開かれたオリンピックで、初めて高跳び選手が『チップ』のプロトタイプを使った。」
「最初に使ったからといって、同じじゃなくていいじゃないか。職人じゃあるまいし。」
「彼は非常に短い期間で使い方を習得した。 それから何度も実験をしたけれど、習得が一番早いのは高跳び。」
「ふーん。ちなみにその選手は優勝できたのか? やっぱ違反でメダル剥奪か?」
「跳びすぎて落ちて死んだ。」
「……。」
少し疲れたかな? 頭の後ろの方が重くなる。
そして小一時間歩いたところで、赤い岩のザラザラした地面を横切る、その赤より薄めの帯……。
「道だ。」
南北に伸びる太い道。
もし街があるならば、きっと……。
半径2mテレポート 髙 仁一(こう じんいち) @jintaka1989
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